思想遊戯(4)- 桜の章(Ⅳ) 桜の樹の下には

第四項

 また話をする約束を交わして、僕は一葉さんにさよならを言った。
 彼女は、飲み終わった容器をゴミ箱に捨てて去って行った。僕は、去って行く彼女の後ろ姿をさりげなく見詰めた。
 桜が美しく咲いている。桜と、遠ざかる彼女の後ろ姿を僕は交互に見詰める。桜を見る視点は無数にありえる。それらの視点の違いによって、異なる風情を感じることができる。このことは、とても素敵なことだと思った。

 桜の樹の下には屍体が埋まっている・・・。
 不意に、僕の脳裏にこの言葉が浮かび上がった。
 桜の樹の下には屍体が埋まっている・・・。
 散る桜。桜の花びらは、ある意味で屍体だ。
 桜は、生物の死骸である土から養分を吸い込み、花びらという屍体を舞い散らせる。花びらは散り、一面が花びらに覆われている地面とは、すなわち屍体で覆われている大地。
 僕は一体、何を考えているのだろう。僕は一葉さんと話すことを通じて、今までになかったものが、自分の中に生まれてきたことを自覚する。
 それは、たぶん、きっと、狂気と呼ばれるものだろう。
 僕は彼女と関わることで、自分の中にも狂気が根付いていたことを感じていた。


※次稿「思想遊戯(5)- 桜の章(Ⅴ) 散る桜」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

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西部邁

木下元文

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投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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