思想遊戯(4)- 桜の章(Ⅳ) 桜の樹の下には

第ニ項

祈「智樹くん。花見でもしないかな?」
 授業の後、水沢に誘われた。
智樹「いいよ。ちゃんとしたやつ?」
祈「そこまでちゃんとしてなくても…。コンビニで飲み物でも買って、ちょっと歩かないかな?」
 僕はうなずいた。学内のコンビニで飲み物やらなんやらを買って、僕と水沢は校内を出て歩きはじめた。大学近郊にはたくさんの桜が埋められているから、この季節は美しい光景が続いている。僕らは、近くの公園にある比較的人通りの少ないベンチに腰掛けた。桜は、満開の一歩手前といった感じだけれど、鑑賞するにはまったく問題ない。
智樹「今日は、白系でまとめているね。春だからかな?」
祈「智樹くんが服に注目するって、どうしたのかな?」
 水沢はちゃかした答えを返してきた。悪かったな。服にコメントするとか、らしくないことして。
 僕らは買ってきた缶を開けて、軽く当てて乾杯をする。
智樹「どう、大学生活もそろそろ馴れてきた?」
祈「まあまあかな。智樹くんは?」
智樹「うん。俺もまあまあかな。でも、不思議だよね。水沢とは、高校時代はあんまり話したことなかったけれど、大学が一緒になって割とよく話すようになった感じだもんな。」
 水沢はうなずいた。
祈「そうだね。智樹くんは、高校のときとあんまり変わらない感じだけどね。」
智樹「そうかな? そうかもなぁ…。別に何かを変えようとかしてないしなあ。別に大学デビューも狙ってないし。」
祈「まあ、そんな感じはするね。」
 僕は持っていた缶を傾ける。良い気分になってきた。
智樹「そういえばさ、水沢はさ、桜の樹の下に屍体が埋まっているって話、知ってる?」
 水沢は僕を見た。
祈「何かな? 怪談? 大学生にもなって、学校の七不思議ってこと?」
 僕は、水沢に何と説明したものかと考えていたけど、そういう方向で考えてくれるなら、それはそれでありかと思った。
智樹「まあ、一種の怪談だな。桜が綺麗な花を咲かせるのは、桜の下に屍体が埋まっていて、その養分を吸っているからだって話。」
 水沢は、おもしろそうに言った。
祈「何それ? ホラー? ゾンビ? 桜の下にタイムカプセルとか埋めようとしたら、屍体が出て来るの? タイムカプセルとか埋めようとした小学生が、屍体を見つけちゃってトラウマって話かな?」
 僕は、その光景を想像して、苦い顔をする。
智樹「確かに、それは壮絶なトラウマだな・・・。」
祈「屍体は、誰かが埋めたの?」
智樹「桜を綺麗に咲かせようとした人が埋めたんじゃない?」
 水沢は面白そうに笑う。
祈「それは違うでしょう。むしろ、人殺しが殺人を隠そうとして、桜の下に埋めたのじゃないかな? だけど、その年の桜の花が綺麗すぎるって噂になって、あわてて掘り起こしたところを見付かって逮捕、みたいな?」
 僕は感心した。
智樹「その話、おもしろいな。」
祈「おもしろくないよ。変な話をさせないでよ。」
智樹「悪い。でも、もしかして水沢って、ホラー系好きとか?」
 水沢の感性は、一葉さんとも違っていて面白い。水沢は、横を向いてから応えた。
祈「えっと…、違うっていうか…。友達に誘われて、少しなら見たことがあるというか…。」
 僕は、おかしくなった。多分、水沢はホラー系統が好きなタイプだな。ニヤニヤしていると、水沢はこっちを見て言ってきた。
祈「それで?」
 水沢は僕をじっと見た。

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西部邁

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