『日本式正道論』第二章 神道

「日本正道論」特集ページ

【目次】
第二章 神道
第一節 日本書紀
第二節 神皇正統記
第三節 唯一神道
第四節 国学の系譜
第一項 契沖
第二項 荷田春満
第三項 賀茂真淵
第四項 本居宣長
『直毘霊』
『玉勝間』
『うひ山ぶみ』
第五項 平田篤胤
第五節 幕末の国学運動
第一項 鈴木朖
第二項 和泉真国
第三項 大国隆正
第四項 宮負定雄
第五項 鈴木重胤
第六項 長野義言
第七項 桂誉重

第二章 神道

 神道は、天皇を祭祀とし、日本固有の神々を崇拝する信仰名です。日本土着の民族的な信仰を加えて広くとらえる場合もあります。無土器文化や縄文時代の信仰を基盤とし、稲作文化の伝来に伴って多様化した神々の神話を統合することによって誕生しました。それが神道であり、本居宣長が『古事記伝』で示した「物にゆく道」なのです。『鈴屋答問録』には、〈神道に教への書なきは、これ眞の道なる證(シルシ)也〉と語られています。
 神道では、自然も人間も神々から生まれたと考えられています。神道は、あらゆる万物自然は神々であるという八百万神を信仰する道です。神道は文字通りに「神の道」ですから、神道関連の書物には、「物にゆく道」としての「神の道」の伝統が展開されています。日本語の古語では、「道(ミチ)」の「ミ」は神のものにつく接頭語であり、「チ」は方向を意味しています。
 古代には、人の通路にあたる道には、それを領有する神や主がいると考えられていました。悪霊が侵入するのを防ぎ、通行人や村人を災難から守るために祭られる神を道祖神と呼びます。『万葉集』の〔巻第十七・四00九〕では、〈玉桙の道の神たち〉と、道祖神の存在が示されています。鴨長明(1155~1216)の『発心集』には、〈君の御ためにはたかき大神とあらはれ、民のためにはいやしき道祖神となり、知恵の前には本地をあらはし、邪見の家には仏法をいましめ給ふ〉とあります。君主のためには大神が現れ、人民のためには道祖神が現れるというのです。
 本章では、日本の神道における神の「道」の伝統を見ていきます。

第一節 日本書紀

 「神道」という言葉が日本史上で初めて登場するのは『日本書紀』(720)です。『日本書紀』は、日本国家における最初の歴史書であり、「神道」の文字を三箇所で見つけることができます。

① 天皇、仏法を信けたまひ神道を尊びたまふ。[巻第二十一 橘豊日天皇 用明天皇]
② 天万豊日天皇は、天豊財重日足姫天皇の同母弟なり。仏法を尊び、神道を軽(あなづ)りたまふ。[巻第二十五 天万豊日天皇 孝徳天皇]
③ 惟神は、神道に随ふを謂ふ。亦自づからに神道有るを謂ふ。 [巻第二十五 天万豊日天皇 孝徳天皇]

 ただし、最後の惟神は分注で、平安時代の竄入とする説や義注か訓注かの議論があります。ここでいう「神道」とは、日本において古くから伝えられて来た民族的風習としての宗教的信仰を指しています。

第二節 神皇正統記

 北畠親房(1293~1354)は、鎌倉末期から南北朝時代にかけて活躍した公卿です。著書である『神皇正統記』は、日本の神代から後村上天皇までを叙述した史書です。
 『神皇正統記』の〔神代〕では、〈唯我國ノミ天地ヒラケシ初ヨリ今ノ世ノ今日ニ至マデ、日嗣ヲウケ給コトヨコシマナラズ。一種姓ノ中ニヲキテモヲノヅカラ傍ヨリ傳給シスラ猶正ニカヘル道アリテゾタモチマシマシケル〉とあります。ただ我が国のみが天地開闢の初め以来今日に至るまで、天照大神の神意を受けて皇位の継承はすこしも乱れがなく、時として一種姓のなかで傍流に伝えられることがあっても、またおのずからに本流にもどって連綿と続いて来ていると語られています。
 [天津彦々火瓊々杵尊]においては、〈應神天皇ノ御代ヨリ儒書ヲヒロメラレ、聖徳太子ノ御代ヨリ、釈教ヲサカリニシ給シ、是皆権化ノ神聖ニマシマセバ、天照大神ノ御心ヲウケテ我國ノ道ヲヒロメフカクシ給ナルベシ〉とあります。天照大神から受け継がれてきた日本の道には、儒教や仏教も含まれていることが分かります。
 〔人徳〕では、〈天地アリ、君臣アリ。善悪ノ報影響ノ如シ。己ガ欲ヲステ、人ヲ利スルヲ先トシテ、境々ニ對スルコト、鏡ノ物ヲ照スガ如ク、明々トシテ迷ハザランヲ、マコトノ正道ト云ベキニヤ〉とあります。天あって地あり、君あって臣があるというのです。善悪の応報は影響として確実に現れるというのです。己の欲を捨て、人を利することを先とし、外物に対しては鏡が物を照らすように、清明で迷わぬ境地こそ、真の正道というべきだと語られています。
 〔嵯峨〕では、〈且ハ佛教ニカギラズ、儒・道ノ二教乃至モロモロノ道、イヤシキ藝マデモオコシモチヰルヲ聖代ト云ベキ也〉とあります。仏教にかぎらず、儒教・道教をはじめ様々の道、卑しい芸までも盛んにし、取り上げてこそ聖代と言えるというのです。ですから、〈サマザマナル道ヲモチヰテ、民ノウレヘヲヤスメ、ヲノヲノアラソヒナカラシメン事ヲ本トスベシ〉となります。さまざまの道を取り上げ、人民の困苦をなくし、お互いに争いごとのないようにするのが国を治める根本であるというわけです。また、〈一氣一心ニモトヅケ、五代五行ニヨリ相克・相生ヲシリ自モサトリ他ニモサトラシメン事、ヨロヅノ道其理一ナルベシ〉とあります。天地の根源たる一気一心にもとづき、五大(地・水・火・風・空)五行(木・火・土・金・水)が相互にかかわりあっている世の中の法則を解し、人にも悟らせることは、よろずの学芸すべてに通ずる道の理だとされています。
 〔後醍醐〕では、〈オヨソ政道ト云コトハ所々ニシルシハベレド、正直慈悲ヲ本トシテ決断ノ力アルベキ也〉とあり、政治の道では、正直や慈悲を根本として、決断力が大事だと説かれています。

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