近代を超克する(29)対キャピタリズム[2]マックス・ウェーバー

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「近代の超克」特集ページ

 マックス・ヴェーバー(Max Weber, 1864~1920)は、ドイツの社会学者・経済学者です。社会学の黎明期の主要人物の一人です。

ウェーバーの資本主義の精神

 ヴェーバーが1904年から1905年にかけて著した『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(Die protestantische Ethik und der ‘Geist’ des Kapitalismus)』は、プロテスタントのカルヴァン派の世俗内禁欲が、近代資本主義の精神的な基盤を準備したと論じたものです。
 ヴェーバーは、古代にも中世にも資本主義は存在しましたが、近代資本主義のような独自のエートスが欠けていたと考えています。その欠けていたものとは、職業義務(Berufspflicht)という独自な思想であり、それは資本主義文化の「社会倫理」に特徴的なものだというのです。それは、あたかも労働が絶対的な自己目的であるかのように励むという心情であり、天職(Beruf)という考え方なのです。
 つまりヴェーバーは、正当な利潤を、天職として組織的かつ合理的に追求するという心情を、近代資本主義の精神だと考えているのです。この天職という概念は、プロテスタント教派の中心的教義が表出されているというわけです。
 プロテスタントのカルヴァン派には、救われるか否かは神の意志で予め定められているという「予定説」があります。予定説のゆえに、信仰心のある者は救済の確証を得ようとして禁欲的な生活を送り、結果として経済的な成功を遂げます。つまり、神を審査しているわけなのです。そこでは、経済的な成功は救済の確証となり、禁欲は救いの確信を得ようとする者に要求される行為となるのです。
 来世を目指す世俗内部での生活態度の合理化は、禁欲的プロテスタンティズムが、つまりはキリスト教的禁欲の精神が天職観念として作り出したものだということです。この逆説的な論理によって、富の獲得は悪いことではなく、正しいことになるのです。これが、近代資本主義の精神が生まれ出た理由として提示されているのです。

近代資本主義の精神が生まれ出た後

 ヴェーバーは、近代資本主義が生まれ出た後についても言及しています。
 この秩序は、その機構における一切の諸個人の生活のスタイルを決定し、燃料の最後の一片が燃えつきるまで生活を決定し続けると推測されています。生み出した精神から切り離され、資本主義はそれ自体で動いていくかのようです。そのとき、近代資本主義が生まれるために必要とされた天職という観念はどうなるのでしょうか。
 ヴェーバーは、勝利した資本主義はもはや禁欲の精神を必要としなくなり、天職義務の思想は宗教的信仰の亡霊として、我々の生活の中を徘徊するようになるというのです。
 その巨大な発展が終わるとき、何が起こるか誰にも分からないと彼は述べています。ただし、最後に末人たちが現れるとされています。それは精神のない専門人であり、心情のない享楽人だというのです。ここにいたると、われわれの価値判断は、信仰判断の領域に入りこむことになるというのです。

ウェーバー講演『社会主義』

 ちなみに、ウェーバーが社会主義をどのように考えていたかは、1918年の講演『社会主義』から分かります。彼は、社会主義の対立物は私経済的秩序にほかならないと述べています。ヴェーバーの言う社会主義は、第一に利潤がなく、私的企業家が自己の責任で生産指導する状態がない経済を意味します。第二に、生産の無政府状態であり、企業家相互間の競争が存在していません。

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西部邁

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