思想遊戯(9)- パンドラ考(Ⅳ) 高木千里からの視点
- 2016/8/22
- 小説, 思想
- feature5, 思想遊戯
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イーアペトスの息子プロメーテウスは初めて泥から人間を作り上げた。
のちにヘーパイストスはゼウスに命じられて泥から女の像を作り、
これにアテーネーが生命を与え、
ほかの神々が思い思いの贈り物を与え、
そのゆえに、
彼女をパンドーラ[すべての贈り物を与えられた女]と名づけた。ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』より
第一項
上条一葉は、不思議なやつだ。
私と一葉の出会いは、高校一年のときになる。高校に入学して、クラスでの顔合わせのときだ。一葉は、かなり目立っていた。いろいろな意味で。
まず、美人だ。同じ女として認めるのは癪ではあるが、間違いなく美人だ。それに、あのストレートの黒髪。外見だけで、十分に目立っている。それに加え、授業中に平気で本を読んでいたりする。かなりの変人だ。わがままというより、マイペースといった感じを受ける。
最初は先生たちも注意していたが、一葉がまったく動じなかったり、教室を出て行ってしまったりするので、そのうち触れてはいけないような扱いになった。テストでは、それなりの点数を取っていたことも影響しているのだろう。ある意味、たいしたやつだと思う。
正直なところ、私は当初、一葉のことが好きではなかった。それはそうだろう。外見で恵まれている者は、嫉妬をやり過ごすように生きなければならない。そんなことは、女の世界では常識だろう?
私は性格が男らしいとか言われたりもするが、それでもそれなりの嫉妬心だってあるにはある。他の女たちの嫉妬にだって気づく。私はおせっかいにも、一葉に注意したことがあった。
千里「上条さん。あなた、そんなだといつか痛い目見るよ?」
そのとき一葉は、不思議そうな顔をして私を見た。そのときの透き通った瞳を、私は今でもはっきりと覚えている。
私は内心うろたえながらも、一葉をにらみつけながら言ってやった。
千里「少しばかり可愛いからって、そんな好き勝手していたら、みんなにも嫌われるし、よくないよ。」
一葉は、しばらくじっと私を見ていた。私も、なにかムキになって眼をそらさずににらみつけてやった。しばらくそうしていると、一葉の方から口を開いた。
一葉「どうしてでしょうか?」
千里「・・・何がよ?」
一葉「どうして高木さんは、私にかまってくれているのでしょうか?」
千里「・・・そりゃあ、クラスメイトだし・・・。あと、後で問題とか起きても嫌だし・・・。」
一葉「でも私、静かにしているし、みんなに迷惑をかけないようにしています。」
そう言って、一葉は私を見るのだ。そのときの私の感情は、ちょっと説明しづらい。
あきれたのか? 悲しくなったのか? 滑稽に思ったのか? 哀れに感じたのか? 得体の知れないものとして恐怖を覚えたのか? 多分、どれも少しは含まれていたと思う。そんな、複雑な気持ち。
今思い返してみれば、こんなささいな出来事で、私は一葉にしてやられたのかもしれない。
千里「あなたねぇ・・・、そんな自分勝手に・・・。いい? ここは学校で、協調性が求められるところなの。もう義務教育じゃないんだから、協力し合う気がないんならさっさと止めたら?」
私がそういうと、一葉はしばらく考え込んでから、こう言った。
一葉「分かりました。」
私は驚いた。
千里「そ、そう? それなら、いいんだけど・・・。」
一葉「はい。それで、私はどうしたらよいのでしょうか?」
そう言って、一葉は再び私の瞳をのぞき込むのだ。
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