「技術的失業」について ー テクノロジー崇拝が資本主義を不安定化する?
- 2013/11/20
- 経済
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テクノロジーが雇用を奪う?
2011年にアメリカで『機械との競争(Race Against the Machine)』という本が出版され、2013年に日本語にも翻訳されて少し話題になりました。情報技術をはじめとする近年のテクノロジーが、これまで人間が担っていた仕事をかつてない勢いで代替しつつあり、すでに雇用にネガティブな影響を与えていて、かつこれからも与え続けるであろうと論じた書籍です。[*1]
本書の著者たちはアメリカ経済に関する基本的な統計データを比較して、企業の利益やGDPが伸びているにもかかわらず雇用が落ち込んだままであることや[*2]、労働生産性とGDPの伸びが90年代までは雇用や家計所得と連動していたのに、2000年代に入ると乖離し始めて、雇用と所得は伸び悩んでいること[*3]などを示し、これらの背景には、グローバル化による賃金抑制圧力と並んで「テクノロジーによる仕事の代替」が強く影響していて、その効果が未だ十分に分析されていないのだと指摘しています。
【アメリカ経済全体の成長に対する雇用の伸び悩み】*4
ただ、この書籍自体はそこそこ話題になったものの、後述するようにテクノロジーが雇用を奪うという「技術的失業(Technological Unemployment)」[*5]の議論は、ビジネスマンにも経済学者にもあまり人気があるとは言えないものでしょう。19世紀始めの「ラッダイト運動」を始めとして、「機械に仕事を奪われる」という懸念が高まったことは歴史上何度かありましたが、少なくとも長期的には、「新たな仕事」が生み出されることによって人々の所得は全体として増加し、大多数の人がテクノロジーの恩恵を享受してきたと言えます。
また近年、日本を含む先進国で賃金や雇用が減少したり伸び悩んだりしているのは、主として「グローバル化」による低コスト競争や、デフレ不況による総需要の不足が原因なのであって、テクノロジーの影響は相対的には小さいでしょう。
しかし後述するように、テクノロジーの急速な進歩が短期的には失業を生む効果があること、高スキル労働者と低スキル労働者への二極化を促して所得格差を拡大すること、企業活動のグローバル化とも無関係ではないこと、そして労働者から資本家へのパワーシフトを加速することなど、考えなければならないことがいくつかあって、「技術的失業」にまつわる議論も無視することはできないと思います。
*1 共著者の1人であるAndrew Mcafee氏がTEDカンファレンスで行った講演の模様の動画(日本語字幕あり)
*2 グラフのリンク(英語):Trends in US GDP profits,investment,and employment,1995‐2011
*3 グラフのリンク(英語):http://digitalcommunity.mit.edu/community/featured_content/race-against-the-machine/blog/2012/12/27/the-great-decoupling-of-the-us-economy
*4 *3より引用
*5 ケインズが1930年のエッセイ「Economic Possibilities for our Grandchildren」のなかでこの用語を用いています。
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