「技術的失業」について ー テクノロジー崇拝が資本主義を不安定化する?

問題を整理する

 テクノロジーの急激な変化が雇用や労働に及ぼす影響についてどのように考えれば良いのか、いったん問題点を整理してみましょう。
(1) 少なくとも短期的には、失業を発生させ得る。
(2) 長期的にはテクノロジーがもたらす恩恵が大きいにしても、大きな技術革新のたびに失業その他の混乱が発生するのであれば、そのこと自体が我々の社会の一つの慢性的な課題であるとも言える。
(3) 今、我々の経済システムに過度なグローバル化や労働市場の流動化(非正規雇用の増加)が生じているのだとして、ITの発達がその促進要因の一つになっている可能性は高い。
(4) 最新のテクノロジーを使いこなして新たな価値を生み出すクリエイティブな層と、テクノロジーに使われる側となる単純労働者への二極化が置き、所得格差を拡大する。
(5) テクノロジーへの依存度が上がるということは、労働者から資本家への権力のシフトを意味し、経済の金融化を助長する一因ともなって、資本主義を不安定化させる可能性がある。
(6) ITが実現するコミュニケーションの高速化が、金融取引を流動化し、市場を不安定化させる面もある。
(7) 職業は個人の人生やコミュニティの形成と密接に関わっており、あまりにも速いイノベーションは、人々のアイデンティティを不安定化させ得る。
(8) 現在我々の経済はデフレ不況下にあるので、テクノロジーの進歩が需要の増加を伴わずに供給能力を増加させた場合、経済状況を悪化させ得る。
 では、これらの問題点があるのだとして、我々はどのような行動を採るべきなのでしょうか。
 私は個人的には、ラッダイト運動のように「新しい技術を断固として拒否する」という態度もある意味好きではありますが、一般的には受け入れられ難いでしょう。既に述べたように、技術の進歩こそが生活を向上させるという固い信念が我々の社会には存在するからです。
 また、たとえば軍事力のようなものは技術力と密接に関わっており、食料やエネルギーのような分野においても技術の水準が国家の生存に関わる場合はあるはずですから、技術の進歩自体に抵抗するというのは合理的ではないでしょう。
 しかし、だからと言ってイノベーションを全面的に加速すれば良いのかというと、そうでもないとは言えると思います。テクノロジーの進歩は長期的には新しい仕事を作り出すかも知れませんが、今まさに失業している人にそんなことを説いても何の慰めにもなりません。また、所得格差の拡大は社会の不安定化につながりますし、デフレ効果を持つようなイノベーションは、「今」起きないほうが良いとも言えるでしょう。
 過剰な「市場主義」や過剰な「営利精神」が資本主義を不安定化させるのと同じように、過剰な「テクノロジー崇拝」も資本主義を不安定化させる可能性があるのです。

「技術的失業」対策に関する三つの見解

 「技術的失業」がテーマとして論じられるときに、どのような政策的措置を採るべきかについての見解は、おおよそ以下のような三パターンに集約されると思います。
 第一の見解は、イノベーションは基本的に起こるままに任せることとし、それが失業を生むのであれば、「教育」によって労働者を新たな仕事に適応させる努力をすべきだというものです。『機械との競争』の著者もこの立場を採っていますし、おそらく他の経済学者もビジネスマンも、大半の人はこの見解を支持するのでしょう。
 私も教育は大事だと思いますが、気になるのは、新たに生み出される仕事が、能力の高い人から低い人にまで幅広く行き渡るようなものであり得るのかということです。フィルムカメラ工場の労働者がデジカメ工場に転身するというのであれば、教育による適応はある程度容易かも知れません。しかし、単純労働者をクリエイターに成長させるような教育が多くの場合に成功するのかは疑問です。もしテクノロジーの進歩が、「中程度のスキルを持つ労働者」との組み合わせで価値を発揮するようなものではなく、「高度に知的なクリエイター」と「低賃金の単純労働者」との組み合わせによって価値を生むようなものであった場合には、教育が無力となる可能性もあるでしょう。
 第二の見解は、「教育」によって多くの労働者を新たな環境に適応させるのも実際には難しいので、セーフティネットを整備すべきだというものです。経済学者のP・クルーグマンは、「技術的失業」の問題が教育によって解決することはないと断じています。クルーグマンは、今起きているのは高スキル労働者と低スキル労働者の対立ではなく、「労働者」から「資本家」へ富が移転していくという構造的な問題なので、教育が格差縮小の術になるかどうかは疑問であり、できることといえば、最低所得保証や医療などのセーフティネットを整備することぐらいだろうと主張しています。[*1][*2]
 第三の見解は、イノベーションのあり方そのものに方向付けを与えようというものです。経済学者のJ・E・スティグリッツが最近のインタビュー記事で、コスト削減のためのイノベーションはもうやめようと発言しています[*3]。これは裏を返せば、労働者の所得を増やすような種類のイノベーションを後押ししていこうということでしょう[*4]。具体策を考えるのはもちろん簡単ではありませんが、例えば土木建設のように雇用創出効果の大きい分野へ公共投資を行うことも考えられますし、福祉や介護のように需要があるにもかかわらず賃金が伸び悩んで人材が集まらない分野においては、逆にテクノロジーへの投資を促して生産性を高め、1人あたりの所得を増やすことが必要かも知れません。

*1 Krugman, P.:Sympathy for the Luddites, The New York Times, June 13, 2013.
*2 上記記事の日本語訳:クルーグマン:ラッダイトを憐れむ歌
*3 ジョセフ・E・スティグリッツ:TPPと規制緩和を問い直す
*4 そういえば10月にスティグリッツが東京で講演していたのをたまたま聴講しましたが、その際も彼は、「アメリカで最もクリエイティブな、優秀な若者たちが、大挙して金融業界に押し寄せたのはまったく不幸なことで、もっと有益なイノベーションが必要とされている分野がたくさんあるのに。教育や医療など、所得格差の是正に役立つような分野への投資を増やさなければならない」と嘆いていました。

イノベーションの促進と大きな政府

 上記三つの見解のいずれも無視することはできないでしょうが、ここで確認すべきなのは、どれをやるにしても「政府」が積極的な役割を果たさなければならないということです。
 新たなテクノロジーを実際に開発するのは民間の企業や研究者だとしても、雇用を生みやすくするように大まかな方向付けを与えたり、技術の変化に適応するための人材育成を強化したり、一時的な失業から労働者を保護したりといった活動は、政府が担うべきものです。

 いわば、弊害を抑制しつつイノベーションを促進するためには、大きな政府が必要とされるということであって、現在も推し進められているようなほぼ「規制緩和」のみを軸としたイノベーション政策とは、方向性の異なる議論を行わなくてはならないのです。

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西部邁

川端祐一郎

川端祐一郎会社員

投稿者プロフィール

1981年生。筑波大学社会学類卒業。現在、京都大学大学院工学研究科博士後期課程に在籍。

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