日本の英語公用語化の流れについて

日本語

私はフィリピンの首都マニラで生まれ育ちました。フィリピンは、タガログ語をベースにした「フィリピン語」と英語が公用語になっています。学校教育も、大きな部分が英語で行われていて、私も英語で教育を受けました。フィリピンの大学では、授業が英語で行われ、アメリカの教科書をそのまま使っている場合があります。物理学、数学、工学の専門科目は、授業も教材もほとんど英語でした。

経済力と文化や言語には深い関係があるのではないか

私は、大学の途中で日本に留学することになりました。来日してひとつ驚いたのは、日本人はほとんど英語が使えないということです。片言の英語すら喋れない人が多かったような気がします。日本の学校に入学したら、教科書はもちろん、全部日本語でした。ここは日本だから当たり前でしょうが、私は、国の発展と言語の関係について色々と考えるようになりました。日本は、第二次世界大戦で焼け野原と化してしまったが、その後復興し高度経済成長を成し遂げた「奇跡」の国なのです。その復興や成長の「秘訣」を知りたかったのですが、日本の経済力と日本の文化や言語には深い関係があるのではないかと思うようになりました。要するに、科学技術のみではなく、言語を含む文化や伝統も、国の発展の大切な要素なのではないかということです。

私がフィリピンの大学に入ったのは80年代後半ですが、そのとき大学の授業をフィリピン語で行うという動きがありました。しかし、多くの学生や先生が積極的ではなかったり、反対したりしていたことが記憶に残っています。今までずっと英語を使ってきたのでいきなりフィリピン語に切り替えるのは確かに難しかったでしょう。それに、フィリピン語の教材が揃っていたわけではなかったのです。私自身、授業のフィリピン語化に抵抗を感じていました。やはり、面倒くさいし、「国際化の時代で今更フィリピン語?」とか、疑問を抱いていたのです。

日本の英語公用語化は「発展途上国化」である

しかし、日本に来てから、国民が母国語で教育を受け、学問や商売を母国語で行うことは、日本の発展に大いに貢献してきたのだと、分かってきました。フィリピンの場合、英語が公用語であって、教育が英語で行われているとしても、やはり自分たちの母国語ではないため、一部の「エリート」を除いて、多くの人が知識を共有できないでいるような気がします。学校を出ていても、英語を高いレベルでこなせない人も多く、そういう人々は、高度な学問や知識を身に付いているなど、考えられないのです。これに対して、日本人はある程度の基礎知識を共有していて、教育レベルが平均的に高いという印象を受けました。実際、色んな調査の結果によると、日本人は世界的に見ても学力が高いという結果が出ています。これはやはり、日本人が母国語で高等教育を受け、学問もビジネスも日本語で行っているからだということは、明らかだと思います。

しかし最近、日本で奇妙な動きが出ています。「グローバル化」の時代に「グローバル人材の育成」の必要性を訴え、大学の授業の「英語化」などを推奨する人が現れてきました。あるいは、大学の入学試験にTOEFLを利用するという案も出ています。また、会社内の公用語を英語にするとかという動きもあります。英語を道具として身に付けることは悪いことではないでしょう。しかし、「グローバリズム」に基づく教育やビジネスの英語化などは違うと思います。そんなことをして、日本がはたして経済的に発展し、より豊かになるのでしょうか。国家のレベルで考えると、はたしてそれでいいのでしょうか、私は疑問に思ってなりません。日本の英語の公用語化は、結局日本の「フィリピン化」、すなわち「発展途上国化」になるのではないでしょうか。

多くの日本人は、英語が使えないだけではなく、英語を使う必要もないわけです。そしてそれは、日本人にとって恥ずかしいことではなく、誇りなのです。藤原正彦氏は、著書「国家の品格」にて、日本人が国内で生活するには母国語で十分だというのは、植民地にされたことがないからだと言っています。また、「TOEFLのテストで日本はアジアでビリ、というのは先人の努力に感謝すべき、誇るべきことなのです」と書いています。私は以前、フィリピンがアジアでTOEFLのスコアで一位を争っていることを誇りに思っていました。しかし、フィリピンが400年位もの間スペインやアメリカの植民地だったがために英語が公用語になっているわけです。それは考えてみれば、誇れるようなことではないのです。

西部邁

レイ

レイ会社員

投稿者プロフィール

日本が大好きなフィリピン人です。80年代の不動産バブルが弾けるちょっと前に留学生として来日しました。現在はサラリーマンをしていて、日本人の妻と三人の子供と一緒に平凡な暮らしをしています。日本経済は長年デフレ状態で成長が滞っているのですが、必ず復活することを信じています。

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