「日銀理論」を取り戻そう

日銀理論

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「『日銀理論』を取り戻そう」というタイトルで、全体で約55分のプレゼンテーションです。

動画:『日銀理論を取り戻そう①』島倉原 AJER2014.4.25(5) – YouTube

岩田規久男日銀副総裁、浜田宏一内閣官房参与に代表される、いわゆる「リフレ派」の方々は、金融政策に関する日本銀行の考え方を「世界標準に取り残された『日銀理論』」と称して、長年批判の対象にしてきました。
今回のプレゼンでは、「世界標準に取り残された」という認識自体が誤りであると共に、実証的な観点からも、むしろ批判するリフレ派の議論の方が説得力に乏しいことを、岩田氏の20年以上に及ぶ日銀批判を手がかりにして、論じてみたいと思います。

以下はプレゼンテーションの概要です。

貨幣乗数理論に基づく日銀批判

岩田氏が日銀批判で有名になったのは、日銀のエコノミスト翁邦雄氏(現京都大学公共政策大学院教授)との間で1992年に「週刊東洋経済」誌上で行われた「マネーサプライ論争」です(なお、現在ではマネーサプライではなく「マネーストック」と呼ばれるのが通例なので、以下では「マネーストック」で統一します)。
岩田氏は同論争、あるいはその後出版された「金融政策の経済学 「日銀理論」の検証」において、彼自身が「標準的なマクロ経済理論」とする貨幣乗数理論を用いて、「バブル経済時のマネーストック膨張、バブル崩壊後のマネーストック急減のいずれも、マネタリーベース量を通じてマネーストック量を操作可能な日銀の金融政策に問題があったからで、従ってバブル膨張もバブル崩壊も日銀の責任である」という議論を展開しています。
貨幣乗数理論を要約すると、

  • 中央銀行がマネタリーベース(中央銀行が供給主体であるマネー。現金及び中央銀行への預け金)を増やせば、その結果として「貨幣乗数」倍のマネーストック(金融機関と中央政府以外の経済主体が保有するマネー。現金、民間預金など)が生み出され、経済もそれに伴い成長する(マネタリーベースを減らせば逆の結果が生じる)。
  • 貨幣乗数は、民間預金の量に対して民間銀行が中央銀行に開設した自行口座に確保すべき中央銀行への預け金の比率をルールとして定めた「預金準備率」等に応じて定まる。

という理論で、図示すると以下の通りになります(マネーストックの主体である民間預金の量が、当事者ではない中央銀行の行動によって決まるため、「外生的貨幣供給理論」とも呼ばれます)。

【図1:貨幣乗数理論(外生的貨幣供給理論)のイメージ】

図1:貨幣乗数理論(外生的貨幣供給理論)のイメージ

これに対して当時の日銀関係者からは、「中央銀行は、民間の行動の結果決まったマネーストック量や民間銀行間の資金決済ニーズ(中央銀行預け金での口座振替が用いられる)に対応して受動的にマネタリーベースを供給しているだけ(預金準備率に応じた中央銀行預け金の確保は事後的に行われるものであるし、資金決済ニーズに応じないことは金融システムの崩壊につながる)」「マネタリーベース量やマネーストック量への中央銀行の関与は、あくまでも金利でコントロールできる範囲にとどまる」等の反論がなされています(例えば、翁邦雄「金融政策 中央銀行の視点と選択」参照)。岩田氏はそうした反論を、「標準的なマクロ経済理論に従わない『日銀理論』」として批判しています。
ここでは、「現実の経済で取引手段として用いられるマネーとはマネーストックのことであって、中央銀行が直接供給するものではない」ことは共通の認識としつつ(傍線部を無視して、「マネーに関することはすべからく日銀の責任」という短絡的な議論も時折見受けられるため、あえて強調しておきました)、「中央銀行がマネーストックを(少なくとも概ね)コントロールすることは可能かどうか」が論点になっています。

→ 次ページ:「期待インフレ理論に基づく日銀批判」を読む

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西部邁

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コメント

    • うずら
    • 2014年 5月 04日

    貴重な論考をお示しいただき勉強になりました。

    リフレ派の推進するインフレターゲット論の限界(というより、能力を発揮すべき領域)は、「量的緩和政策は資金調達コストの低下が目的で、マネタリーベース拡大を狙ったものではない」という点に全て凝縮されていますね。

    彼らは、「調達コストの低下」がもたらす『期待』を過大に評価あるいは、誇大に喧伝し過ぎでしょう。

    日銀の国債直接引受け政策ならともかく、現状のように、財政支出の蛇口を固く締めたまま、既発債の名義を日銀に移動させるだけの緩和政策では、マクロ経済を成長させる迫力を著しく欠くことになりますね。
    (それでも、政府の実質的借金を減らす程度の効果はあるでしょうが・・・)

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