期待インフレ理論に基づく日銀批判
いつの頃からか筆者には定かではありませんが、岩田氏の日銀批判は「期待インフレ理論」を主体としたものになり、現在に至っています。
期待インフレ理論を要約すると、
中央銀行が「将来において、インフレを引き起こすのに十分なだけの金融緩和をする」ことを人々に信じさせて「期待インフレ」を生み出せば、実質生産水準も上昇し、不況から脱却することができる。
となります。
ここでの岩田氏の批判は、「デフレ脱却できないのは、米英等の中央銀行では採用されているこうした『世界標準の金融政策の理論』に従わず、マネタリーベース拡大による期待インフレ効果を否定する『日銀理論』に固執して大胆なマネタリーベース拡大を行わない日銀の責任」というものです(例えば、岩田規久男「日本銀行デフレの番人」参照)。
実は、期待インフレ理論の背景にはフィッシャーの交換方程式、すなわち、
マネーストック×貨幣流通速度=物価×実質GDP=名目GDP
が存在すると共に、「中央銀行が将来のマネーストックをコントロールできる(現在は『流動性の罠』その他の要因で一時的にコントロール不能に陥っていても)」ことが暗黙の前提になっています。
その意味では、同理論も貨幣乗数理論が前提となっていて、実は本質的な論点は変わっていないことがわかります。
コメント
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貴重な論考をお示しいただき勉強になりました。
リフレ派の推進するインフレターゲット論の限界(というより、能力を発揮すべき領域)は、「量的緩和政策は資金調達コストの低下が目的で、マネタリーベース拡大を狙ったものではない」という点に全て凝縮されていますね。
彼らは、「調達コストの低下」がもたらす『期待』を過大に評価あるいは、誇大に喧伝し過ぎでしょう。
日銀の国債直接引受け政策ならともかく、現状のように、財政支出の蛇口を固く締めたまま、既発債の名義を日銀に移動させるだけの緩和政策では、マクロ経済を成長させる迫力を著しく欠くことになりますね。
(それでも、政府の実質的借金を減らす程度の効果はあるでしょうが・・・)