ナショナリズム論(5) 対アントニー・D・スミス

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近代主義者と原初主義者と永続主義者

 アントニー・D・スミス(Anthony D. Smith, 1933~ )の『ネイションとエスニシティ』を参照し、ナショナリズムについて考えてみます。本書では、ネイションやナショナリズムが近代に形成されたと見る一方で、近代以前より持続してきた諸要素を重視しているというところに特色があります。
 ネイションやナショナリズムを考える上で、スミスは次の三つの区分を設けています。

<近代主義者>

  • 第一の学派は、近代社会の経済的基礎から出発し、近代的なネイションがいたる所に形成されたことを説明しようとしている
  • 第二の学派といわれる人たちは、より政治的な次元を、分析対象にふくめようとする傾向をもっている

<原初主義者>

  • [第一に]、ネイションとナショナリズムは恒久的であると主張
  • [第二に]、それらは自然なもので[歴史状況に支配されない]、とも主張

<永続主義者>(より徹底した「原初主義」とは区別)

  • 近代世界において見いだされる単位と感情が人類史のきわめて初期にまでさかのぼって確認しうる単位と感情の、より大きな、またより効果的な表現にすぎない、と主張する
  • 人間の特質、つまり、人間には血縁と集団に所属する傾向があり、意志疎通と意味を明確にするために、文化的な象徴が必要であることを前提にするならば、ネイションとナショナリズムは、永続的で、たぶん普遍的であると想定する

スミスは、ベネディクト・アンダーソンやアーネスト・ゲルナーの立場を近代主義者と位置づけています。ちなみに、スミス自身の立場は微妙なのですが、〈ある意味で「近代主義者」は正しいと、私は考える〉と述べています。その説明として、次のように語っています。

 ヨーロッパ諸国家の体系が、一六四八年のウェストファリア条約によって存在するようになったと仮定しても、これらの国家が「民族国家」に転化しはじめたのはしたがって民族国家が存在するようになったのは、十九世紀になってからであった。

 ウェストファリア条約によって、ネイションやナショナリズムを近代のものと考えるのは近代主義者の特徴の一つです。しかし、結局のところ、それはヨーロッパ中心主義的な考え方の一つに過ぎないように思われるのです。

各々の主義者の問題点

 スミスは、それぞれの主義者の問題点にも言及しています。

<近代主義者の問題点>
 「近代主義者」の見解についても、難点がある。というのは、前近代において、古代的世界においてさえ、ナショナルな一体性やナショナルな性格という「近代的な」思考に著しく類似したものが、発見されるからである。

<原初主義者と永続主義者の問題点>
「永続主義者」が、集合的な文化的紐帯と感情の古さを指摘したことは正しいが、この正しい指摘があるからといって、そのような紐帯や感情が普遍的であると仮定することはできない。ましてや原初主義者が主張するように、「自然的」であるとはいえない。

 これらの問題点については、その通りだと思います。どの主義者の考え方に近いかと言われれば、私は永続主義者に近いのですが、各主義の定義を厳密に採用すれば、どの主義者にも同意できないことになります。
 近代主義者のように、〈ネイションやナショナリズムに類似した現象は、古代や中世においても見いだすことはできるが、それらはまったく偶然的で例外的な現象〉と見なしてしまうのは、さすがに馬鹿げています。かといって、永続主義者のように普遍的であると見なすのも無理ですし、原初主義者のように歴史から離れて自然的であると見なすのも無理があります。
 ですから、この三つの主義者とは違う考え方に立てば良いだけなのです。
つまり、ネイションやナショナリズムは、近代以前にも見られる現象であり、歴史状況および歴史意識によって発生する、ということです。

→ 次ページ:「スミスによるネイションの形成」を読む

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西部邁

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