近代を超克する(1)「近代の超克」の問題意識を受け継ぐ

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「近代の超克」特集ページ

 思想というものを考えていく上で、現代においては西欧からの影響を無視することはほとんど不可能です。日本思想の伝統においても、西欧からの影響は、古くはフランシスコ・ザビエルに代表されるキリスト教の伝来があり、幕末には黒船来航から明治維新へといたる流れがあります。その後の日清・日露・大東亜戦争、そして敗戦という流れにおいても、西欧の影響は常に日本に及び続けています。

西欧との格闘

 そのときどきの日本人は、西欧の影響力に対して思想的に格闘してきました。その中でも重要なものとして、西欧近代をどう考えるべきかという思想の枠組みが挙げられます。西欧近代という概念は、ときとして普遍性を装って世の中に影響を与えてしまいます。
 特に現代の日本では、西欧近代は思考における自明の前提とされてしまっている面がありそうです。そのような自明とされる考え方を疑い、改めて考え直してみることは有益なことだと思われます。その際、大東亜戦争の開戦という時代状況下において開催された座談会は、一つの参考になるでしょう。

「近代の超克」という座談会

 昭和十七年(1942年)七月、知的協力会議と銘打たれた座談会「近代の超克」が開催されました。
 近代は、古代・中世に続く時代区分を表す言葉です。西欧においては、「古きもの」に対する「新しきもの」を意味する概念でもあります。
 この座談会では、明治時代以降の日本文化に多大な影響を与えた西洋文化の総括と超克が標榜されていました。日本の近代化に伴う思想上の問題が、京都学派・日本浪曼派・文芸誌『文学界』を代表する人物たち13名によって論じられたのです。

座談会メンバー

 「近代の超克」では、座談会のテーマにそった論文を執筆しているメンバーも多くみられます。座談会のメンバーは、以下のとおりです。

・西谷啓治(1900~1990):京都学派の哲学者。京都帝国大学助教授。論文は『「近代の超克」私論』。
・諸井三郎(1903~1977):音楽評論家。東洋音楽学校・東京高等音楽院講師。論文は『吾々の立場から』。
・鈴木成高(1907~1988):京都学派の西洋史家。京都帝大助教授。
・菊池正士(1902~1974):物理学者。大阪帝国大学教授。論文は『科学の超克について』。
・下村寅太郎(1902~1995):京都学派の科学史家。東京文理科大学教授。論文は『近代の超克の方向』。
・吉満義彦(1904~1945):哲学者・カトリック神学者。東京帝国大学講師。論文は『近代超克の神学的根拠』。
・小林秀雄(1902~1983):文学界同人の文芸評論家。明治大学教授。
・亀井勝一郎(1907~1966):かつて日本浪曼派に参加していた文学界同人の文芸評論家。論文は『現代精神に関する覚書』。
・林房雄(1903~1975):文学界同人の文芸評論家。論文は『勤皇の心』。
・三好達治(1900~1964):文学界同人の詩人。明大講師。論文は『略記』。
・津村秀夫(1907~1985):映画評論家。朝日新聞記者。文部省専門委員。論文は『何を破るべきか』。
・中村光夫(1911~1988):文学界同人の文芸評論家。論文は『「近代」への疑惑』。
・河上徹太郎(1902~1980):文学界同人の文芸評論家。論文は『「近代の超克」結語』。

問題意識を受け継ぐ

 第二次世界大戦後、竹内好(1910~1977)は論文『近代の超克』の寄稿により、忘れ去られていたこの座談会の再検討を促しました。現在は、冨山房百科文庫から『近代の超克』としてまとめられたものが出版されています。この座談会を参照することで、次のような問題提起が可能になります。

 すなわち、「近代」とは何か?
 「近代を超克する」とは如何なることなのか?

 当時のシンポジウムや論文を参照し、この問題に取り組んでいくことにします。つまり、「近代の超克」によって提起された問題意識を受け継いで論じていきたいのです。
 そのためには、座談会メンバーの個々の論文や、座談会での発言の検討が必要になります。


※第2回「「近代の超克」論文を検討する[前編]」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
ウェブサイト「日本式論(http://nihonshiki.sakura.ne.jp/)」を運営中です。

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