保守主義とケインズ主義

鳥居

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。今回は「保守主義とケインズ主義」というタイトルで、全体で約40分のプレゼンテーションになっています。

動画:『保守主義とケインズ主義①』島倉原

今回は、いわゆる「保守思想」について学問的に語ろう、という趣旨ではなく、あくまで経済政策のあり方についてのプレゼンの一環です。
現在、日本経済の長期低迷の原因を分析した論文を執筆中で、次回以降はその説明を予定しています。そこでの議論の重要な基礎にもなっている、「雇用、利子、お金の一般理論」(以下、「一般理論」)の著者として有名なイギリスの経済学者、ジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946)の考え方に前段として触れておきたい、というのが今回の趣旨であり、そのためのキーワードとして「保守主義」という言葉を用いています。

伝統保守と経済保守

ウィキペディアの「保守」という項目には、下記のように記述されています。

保守主義は伝統に倣い、これを墨守することを重要視する政治思想である。伝統とは何かに関しては様々な見解がありうる。
伝統や文化を重んじる伝統保守と、古典的自由主義ないし新自由主義を標榜する経済保守、国益や国家への奉仕を尊重する国家保守主義は、それぞれが目指す目標が異なる。保守主義を標榜する者の思想には、これら3つの要素がある程度の割合で混在しているのが普通であるが、保守主義のどの側面を重視するかで対立が生じることもある。
保守 – Wikipedia

「伝統保守」では、文明社会とは社会的存在としての人間に利益をもたらすための制度という前提のもと、それを成り立たせている「コモン・ロー(古来からの法)」の維持、存続が重視されます。コモン・ローには慣習や、時には身分制度も含まれ(場合によってはそういったものにより重きが置かれ)、18世紀イギリスの政治家で「保守主義の父」とも称されるエドマンド・バークが著した「フランス革命についての省察」に表現されているように、いわゆる既得権益層と結びつきやすい考え方と言えます(バーク自身は「自由党」の前身である「ホイッグ党」に属していて、保守主義者ではなく「自由主義者」に分類されることもあるようですが、彼自身地主階級という、当時の既得権益層に属していたこともまた事実です)。

これに対して「経済保守」では、伝統保守においては社会制度の枠内で相対化される「自由」に重きが置かれます。
いわゆる「新自由主義」に見られるように、典型的には資本家層、あるいは「企業社会の勝ち組」と結びつきやすい考え方なのですが、「自由主義=アンチ支配階級」という構図で、より幅広い層と結びつく場合もあり得ます。

典型例が、18世紀にトーマス・ペインによって書かれ、アメリカ独立革命に大きな精神的影響を与えた「コモン・センス」というパンフレットで、そこでは自由と安全こそが「必要悪である政府」の存在目的であること、宗主国イギリスの国王と上院は「君主専制と貴族専制という2つの暴政の遺物」であって国の事由に何ら貢献しない存在であり、その支配から脱して「悪徳が最小化された政府」を作るべきことが説かれています。
ペイン自身は思想史上「保守主義者」と位置付けられてはいないようですが(彼は、フランス革命をほぼ全否定したバークに反論する「人間の権利」を著したりもしています)、今やこうした「建国の理念」こそ、多くのアメリカ人にとっての「保守すべきもの」になっているのもまた現実でしょう(これはいわゆる新自由主義や、その代表例とされる「ウォール街の強欲資本主義」とは一線を画した人々にもあてはまります)。

「経済保守」は産業革命の発祥地イギリスをルーツとしつつも、近代になって成立した、伝統の浅い国家であるアメリカでより徹底され、同国及び資本主義の勢力拡大と共に広がった考え方(その分伝統保守は廃れた)と捉えることもできるでしょう。
ケインズが一般理論を書いたのは、第1次世界大戦を経て、いわゆる覇権国家がイギリスからアメリカにシフトし、経済学界では新古典派経済学が主流となっていた時期にあたります。

→ 次ページ:「ケインズ「一般理論」の提言」を読む

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西部邁

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コメント

    • Johnb984
    • 2014年 7月 19日

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