保守主義とケインズ主義
- 2013/11/30
- 経済
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「他の一部の側面からしても、これまでの理論が示唆するものは、そこそこ保守的です。というのも、現在は主に個人の主体性に任されている事柄に対して、中央によるコントロールをある程度確立することがきわめて重要だと示してはいるものの、まったく影響を受けないきわめて広範な活動領域が残されているからです。(中略)銀行政策が金利に与える影響は、最適な投資量を独自に決めるには不十分だろうと思えます。ですから、いささか包括的な投資の社会化が、完全雇用に近いものを確保する唯一の手段となるはずだ、と私は考えるのです。これは、公共政府が民間イニシアチブと協力する各種の妥協や仕組みを排除するものである必要はありません。でもそれを超えるところで、社会のほとんどの経済生活を包含するような、国家社会主義体制などをはっきり主張したりするものではありません。国家が実施すべき重要なことがらは、生産の道具を所有することではないのです。もしも国が道具を増やすための総リソース量を見極められて、その所有者に対する基本的な報酬率を見極められたら、それで必要なことはすべてやり終えたことになります。さらに社会化に必要な手立てはだんだん導入すればよく、社会の一般的な伝統に断絶が生じる必要はありません。
受け入れられている経済学の古典派理論に対する私たちの批判は、その分析に論理的な誤りを見つけようとするものではありませんでした。むしろその暗黙の想定がほとんどまったく満たされておらず、結果として現実世界の問題を解決できないというのが批判の中身です。でも私たちの中央コントロールが、実際に可能な限り完全雇用に近い総産出量を確立するのに成功したとしても、その点から先になると、古典派理論は再び活躍するようになります。産出量が所与とすれば、つまり古典派の思考方式の外側で決まるとすれば、何を生産するか、それを生産するのに生産要素がどんな比率で組み合わさるか、最終製品の価値がその生産要素にどんな形で配分されるかについては、民間の自己利益をもとにした古典派分析に対して、何ら反対すべき理由はないのです。(中略)民間の発意と責任を行使する余地は相変わらず広範に残されるでしょう。その余地の中では、伝統的な個人主義の長所が相変わらず成り立つのです。
(中略)個人主義は、その欠点や濫用さえ始末できるなら、個人の自由をいちばん守ってくれるものとなります。なぜなら他のどんなシステムと比べても、それは個人選択を実施する場を大幅に広げるからです。また人生の多様性をいちばんよく守ってくれるものでもあります。これはまさに、それが個人選択の場を拡大したことで生じており、それを失ったことは均質国家や全体主義国家の損失の中でも最大のものです。というのもこの多様性は、全世代の最も安全で成功した選択を内包した伝統を保存するからです。それは現在をその気まぐれの分散化によって彩ります。そしてそれは伝統と気まぐれの従僕であるとともに、実験のメイドでもあるので、将来を改善するための最も強力な道具なのです。
ですから政府機能の拡大を行い、消費性向と投資誘因それぞれの調整作業を実施するというのは、十九世紀の政治評論家や現代アメリカの財務当局から見れば、個人主義への恐るべき侵害に見えるかもしれません。私は逆に、それが既存の経済形態をまるごと破壊するのを防ぐ唯一の実施可能な手段だという点と、個人の発意をうまく機能させる条件なのだという点をもって、その方針を擁護します。」
(ジョン・メイナード・ケインズ「雇用、利子、お金の一般理論」~山形浩生訳、講談社学術文庫~より引用)
↓今回のプレゼン資料をまとめたものです。
保守主義とケインズ主義(チャンネルAjer20131129).pdf
(参考文献)
ジョン・メイナード・ケインズ「雇用、利子、お金の一般理論」
エドマンド・バーク「フランス革命についての省察(上・下」または「フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき 新訳」(後者は翻訳者の編集色が濃い「編訳」ですが、その分整理されていて読みやすいとは思います)
トーマス・ペイン「コモン・センス 他三編」
ジョン・C・ボーグル「マネーと常識 投資信託で勝ち残る道」
(著者はバンガード・グループという、強欲資本主義とは対極的な米国大手ファンド会社の創業者で、私が取締役を務めるセゾン投信と同社が事業パートナーであることを抜きにして、ある意味尊敬に値する人物です。本書は社会思想や経済学ではなく、株式投資についての本ですが、今回トーマス・ペインを取り上げたきっかけにもなっていて、「強欲資本主義と対極にある人物がアメリカ的保守主義をベースとしている実例」を示した参考文献としてピックアップしました。投資・資産運用に興味があるなら一読の価値はあると思います)
宇沢弘文「経済学の考え方」
中野剛志「国力論 経済ナショナリズムの系譜」「保守とは何だろうか」
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