金銭至上主義的な思考に落ち込みやすい現代社会

六本木ヒルズ

先日、私は評論家の中野剛志先生の講演会に参加したのですが、講義後の懇親会で、中野剛志さんが
「思想ってのは、有益ではあるけど、同時に危険でもあるよなー」
という事を言っていたのですが、この思想の危険性について、私なりに考えてみようかなと思います。

当然、中野剛志さんは官僚であり、公益というものを考える立場にあるので、思想の危険性というものを考えるときに、思想が社会全体に与える害悪について想定してたのだと思いますが、今回ははじめに、個人の生き方や考え方に対して、ある種の思想が与える悪影響について考えてみます。

例えば、前回私が書きました記事(『行動力とは何か 頭が良いとはどういうことか』)では、「行動力や頭の良さといった非常に一般的なフレーズや概念について、発想の転換を行うべきではないか?」という問題提起を行いました。

金銭至上主義的な思考に容易に落ち込む危険が現代社会にはある

具体的には、現代の通例で用いられる意味では、主にビジネスや金儲け、つまり金銭的な利益を得るための行動や考え方の様式を指して「行動的だ」とか「頭が良い」という言葉が使われます。

もちろん、このような文脈で「行動的だ」「頭が良い」という言葉が用いられることが必ずしも間違いだとは言いませんが、現代においては、あまりにもこのような意味において、ポジティブなワードや概念として使われすぎており、ともすれば、それが過剰となり、まるで「金儲けに繋がらない行動は無駄だ」「ビジネス社会を上手く渡っていけない奴は馬鹿で落ちこぼれだ」というあまりにも金銭至上主義的な思考に容易に落ち込む危険が現代社会においては常に存在しているわけです。たとえば「一銭にもならない」という言葉は、無駄な行動の代名詞ですし(もちろん、この言葉には金銭的な利益以外の価値が存在することを逆説的に含意している場合もありますが)、「学歴社会」という言葉は基本的に、高い学歴(あるいは学力)を持つほどビジネス社会では有利になるという意味を含んでいます。

もちろん、ほとんどの人は一様に「人生 金が全てではない」と口では言いますが、現実に巷に溢れる言説やフレーズをよくよく観察してみれば、現代社会がほとんど全面的に金銭至上主義的な価値観に侵されていることが容易に見て取れます。一言目には、「日本の伝統を保守する」とか、「瑞穂の国の資本主義」とか、「日本を取り戻す」などと言っている保守を自称する首相が、二言目には「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」「日本を世界で一番ビジネスがしやすい国にする」などと言っており、このような見事な思考的な倒錯を持ち、詐欺的な話術を駆使する首相を保守と持ち上げる論客、知識人がこぞって絶賛している様子を見れば、もはやこのビジネス社会日本における、金銭至上主義、ビジネス至上主義的な価値観もここまできたかと呆れてしまいます。そこまで、ビジネスが大好きなら、いっそのことホリエモンや与沢翼のような詐欺まがいではあっても、ビジネスの天才的なスキルを持った人間でも首相の座に添えて皆で、「稼ぐが勝ち」「金さえあれば女はついてくる」などと叫んでバカ騒ぎでもすればいいではないでしょうか、尖閣諸島も必要になったら金で買い戻せばいいと言って、中国に譲ってしまえばいいのではないでしょうか、たとえ品性を失ったとしても、本当は金とビジネスが一番大切だと腹の中では考えながら、口先で「日本の伝統が大事です」「日本の美しい田園風景を守りましょう」などと言うよりも、少なくとも嘘はついてない分、道徳的に、そして精神衛生的には健全なのではないでしょうか。

そもそも、仮に金銭至上主義的な価値観に社会が侵されていないとするなら、一体誰が、ホリエモンやひろゆきの小学生レベルの言説をありがたがって金まで払って聞きに行くでしょうか?今なら、家入一真や与沢翼でしょうか、このようなどうしようもない人間の下らない妄言や寝言をありがたがって崇拝している様子を見ると、はっきり言って反吐が出る思いがします(エンタメとして割り切って酒やビールのつまみ代わりに聞いているのは、まあ構いませんが)。しかし、彼らのような種類の人間の話をありがたがって聞く人間が大勢いる理由は、先に述べたように、ビジネスで成功する人間、あるいは成功した人間を「行動的だ」とか「頭が良い」と評価する評価尺度が社会に染み付いているからでしょう。

前回の記事では、このようなビジネス社会の価値観にズブズブに入り込んでしまった場合の弊害について説明し、このような価値観からの転換を主張しました。

→ 次ページ:「現実逃避を正当化するために利用される思想や哲学」を読む

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西部邁

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