近代を超克する(31)対キャピタリズム[4]キャピタリズムを超克する

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「近代の超克」特集ページ

 資本主義(キャピタリズム)について、西欧における代表的な論者の意見を参照してきました。最後に、高橋是清(1854~1936)の見解を参照します。
 高橋是清は、財政家であり政治家です。江戸の生まれで、日本銀行総裁・蔵相を経て、首相・政友会総裁などを歴任しました。金融恐慌や世界大恐慌に対処しましたが、二・二六事件で暗殺されました。『随想録』や『経済論』から、是清の考え方を知ることができます。

負担の均衡

 負担の均衡を重視していた是清は、資本主義と社会主義という安易な二元論にとらわれてはいませんでした。

 負担の均衡を重んじて制度を設ける以上は、資本主義だとか、社会主義だとかいふことはなくなる。

 彼は、国の富は国民の働く力にあり、資本と労働は車の両輪のようなもので喧嘩すべきものでないと述べています。資本と労働とが離ればなれだと生産が出来ないため、国力を養うことができなくなります。労資が相結んで、富が出来ると考えられているのです。そのため、得られた富を不公平なく双方に分配する仕組みが求められるというのです。
 ここで示されている考え方は、極めて重要です。是清は、資本主義でも社会主義でもない領域をきちんと認識しており、負担の均衡という観点からその領域について論じているのです。

資本と労働の関係

 資本と労働の関係について、是清は次のように述べています。

 資本が、経済発達の上に必要欠くべからざることはいふ迄もないことであるが、この資本も労力と相俟つて初めてその力を発揮するもので、生産界に必要なる順位からいへば、むしろ労力が第一で、資本は第二位にあるべきはずのものである。ゆゑに、労力に対する報酬は、資本に対する分配額よりも有利の地位に置いてしかるべきものだと確信してゐる。即ち『人の働きの値打』をあげることが経済政策の根本主義だと思つてゐる。またこれを経済法則に照して見ると、物の値打だとか、資本の値打のみを上げて『人の働きの値打』をそのままに置いては、購買力は減退し不景気を誘発する結果にもなる。

 この考え方は参照に値します。是清は、労力を第一に位置づけ、資本を第二としています。そのため、労力に対する報酬は資本に対する分配額より有利な地位に置かれるというのです。
 ここで注意すべきは、是清は常に労働を資本より優先させているわけではないということです。そうではなく、資本分配額と労働報酬の比率について、是清は労働側(の賃金と雇用)を有利な位置において考えているということです。

資本と労働の協調

 是清は、資本家がいてこそ労働者が職を失わずにすむことも正しく認識しています。資本家だけでも、労働者だけでもいけないということです。労資は、どうしても協調していかなければならないと彼は述べています。
 この労資が協力していくという考え方は、当たり前のようですが、きわめて重要です。是清の偉大なところは、安易な社会主義的な思想に染まらずに現実を直視しているところです。例えば、安い賃金でよく働く者が使われることは、資本主義でなくてもそうなのだと述べています。能力の勝った者と劣った者を一緒の賃金にするようでは、産業が成り立たないからです。彼は産業を成り立たせるという観点から、資本と労働の関係を考察しているのです。
 また、資本家をたしなめると萎縮してしまうため、新たに事業を起こすことや、事業の拡張のための勇気が起こらなくなることも指摘されています。それは、労働者にとっても不利益な結果になるというのです。新規事業における資本家の重要性が、労働者の側の利益からも適切に考慮されていることが分かります。

自由貿易と保護貿易

 是清は、国外へは貿易の伸張を図り、国内では資本労働調和を図り、国民の生活を安全なものにすべきだと考えています。そのため、自由貿易と保護貿易の関係が問題になります。
 是清は、アダム・スミス(Adam Smith, 1723~1790)の自由貿易論とフリードリッヒ・リスト(Friedrich List, 1789~1846)の保護貿易論は矛盾してはいないと言います。スミスの足りないところを、リストが足したと解釈しているからです。また、それぞれは、当時の状況に沿った説を主張したと解釈しているのです。
 このように状況に応じた処置は、実際を重視した政治的な判断から導かれるものです。是清は、政治を特定の主義に偏することなく、実際の状況に応じて宜しくすべきだというのです。彼は政治的に、実際の状況に適した政策を主張しているのです。

高橋是清と共に歩む

 是清は、資本主義や社会主義についても正確に理解していると思われます。
 資本主義については、社会主義および共産主義との比較で論じられることが多いですが、資本そのものは、労働や土地との関係で論じられることの多い概念です。そのため是清は、資本と労働(労力)の関係について述べているのです。
 例えば、利き手が右手の場合、第一に右手で第二に左手になりますが、状況に応じて使い分けることになります。是清の考える労働と資本の関係も、これと同じことであり、実際に応じて使いこなすという話になります。ですから、是清が労力第一で資本を第二にしているからといって、是清が資本主義者ではなく労働主義者だというわけでもないのです。ちなみに、資本主義者は資本の利益と蓄積を優先しますし、労働主義者は労働者の賃金と雇用を優先します。
 是清は実際の状況に応じて、資本主義にも労働主義にも偏ることなく、労資協調によって、資本労働調和を図っているのです。そうすることによって、労働者の賃金と雇用の実現を第一にし、第二に資本の利益と蓄積を実現するのです。
 つまり是清の経済における実際の立場は、労資協調経済だと言うことができます。それを単純な資本主義や社会主義とは異なるものと見なすなら、資本主義経済や社会主義経済を選択するのではなく、労資協調経済こそを選択すべきだと言えます。


※第32回「近代を超克する(32)近代を超克した後に」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
ウェブサイト「日本式論(http://nihonshiki.sakura.ne.jp/)」を運営中です。

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