思想遊戯(9)- パンドラ考(Ⅳ) 高木千里からの視点

第五項

 いろいろと抵抗を試みたわけだが、一葉にかなうわけもなく、私は掛け持ちという形で“思想遊戯同好会”に参加することになってしまった。まあ、気が向いたときだけ参加すればよいということで、部費もなしということで、さらにはサークルとして教室利用ができるということらしいので、断る理由も特にはなかったわけだが。
 私は何もしていないが、裏では事態が進行していたらしく、サークル結成記念で他のメンバーと初合流という流れになった。私はその日の講義が終わってから一葉と待ち合わせ、サークルで借りているという教室へと向かった。
 ドアを開けると、すでに他の3名のメンバーがそこにいた。男が2人で女が1人。どっちが噂の佳山くんかな?
一葉「こんにちは。上条一葉です。こっちは、ちーちゃんです。」
 一葉が、とんでもない紹介をする。
千里「ちーちゃん言うな! えっと、高木千里です。はじめまして。」
 どうやらこの3名は新入生らしいので、私は年上の威厳を見せねばならないのに。一葉め、ちーちゃん言うな。
智樹「はじめまして。佳山智樹と申します。高木さん、はじめまして。参加していただき、ありがとうございます。」
 なるほど、こっちが佳山くんか。へえ。
琢磨「あっ、えと、峰琢磨です。智樹と同じ学科で一年です。どうぞよろしくお願いします。」
祈「水沢祈です。よろしくお願いします。」
 なるほど。佳山くんに、峰くんに、水沢さんね。なかなか面白そうなメンバーが集まっているみたい。私は、少しウキウキしだしている。
智樹「まあ、今日はサークル発足の顔合わせということで。幹事長は僕、佳山智樹が、そして副幹事長は上条一葉さんにお願いします。会計は峰琢磨が担当です。水沢と高木さんは、無理にお願いして参加してもらっているので、役職とか気にせず、気が向いたときに参加していただけると助かります。」
 これは、なかなかに面白そうなサークルになりそうだ。詰まらなさそうだったら出ないでおこうとも思っていたけど、少しは頑張って活動してみてもよいかもしれない。一葉がこのメンバーと、どう付き合っていくのかにも興味がある。
 佳山くん、けっこう体格が良いな。何か運動をやっている体だ。運動のサークルではなく、議論するサークルを作るってのが一見すると意外な感じがする。どうやって、一葉をここに引っ張りこんだのだろう? とても興味がある。一葉が一緒に何かやろうと思うなんて、どんな人間なのだろうか? 興味がわかないわけがない。少なくとも、彼は一葉とそれなりにコミュニケーションが取れたということだ。それだけでも、たいしたものだと思う。単に学校の勉強ができるという以上の何かが、彼の中にあるのだろう。
 峰くん、なかなかの好青年です。佳山くんが、ある意味で独特の印象を与えるのに対し、峰君は柔らかい印象を受ける。万人受けしそうな感じもする。おそらく、佳山くんに引っ張ってこられたのだろう。ただ、ここに引っ張ってこられたということは、普通以上の感受性はあるのだろう。
 水沢さん、可愛らしい子だ。身長は私たちの中でも一番低めだが、それが彼女のかわいらしさを際立たせている。彼女も佳山くんに引っ張ってこられたのかな? こんなサークルに入るなんて、物好きな子だなぁ。一葉と付き合いの長い私が言うのも何だが。
 私が水沢さんを見ていると、彼女と目が合った。
祈「あっ、水沢です。よろしくお願いします。高木先輩。」
 そう言って、彼女は頭を下げる。非常に可愛らしいしぐさだ。普通の男だったら、いちころだろう。
千里「よろしく。水沢さん。水沢さんは、どうしてこのサークルへ?」
祈「あ、あの、智樹くんに誘われまして。」
 そう言って、水沢さんは微笑む。
 んっ? 智樹くん? 名前呼び?
 そのとき私は、恋愛ごとで揉め事とか起きないか心配になった・・・。


※次回は9月上旬公開予定です。
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

1 2 3 4

5

西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
ウェブサイト「日本式論(http://nihonshiki.sakura.ne.jp/)」を運営中です。

【ASREAD連載シリーズ】
思想遊戯
近代を超克する
聖魔書
漫画思想
ナショナリズム論

Facebook(https://www.facebook.com/profile.php?id=100007624512363)
Twitter(https://twitter.com/moto_nihonshiki)

ご連絡は↓まで。
nihonshiki@nihonshiki.sakura.ne.jp

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 2016-3-10

    「マッドマックス」は単純なフェミニズム礼賛映画ではない

    「マッドマックス 怒りのデス・ロード」がアカデミー賞最多の6部門賞を受賞した。 心から祝福したい。…

おすすめ記事

  1. 多様性(ダイバーシティ)というのが、大学教育を語る上で重要なキーワードになりつつあります。 「…
  2. SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…
  3. 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」がアカデミー賞最多の6部門賞を受賞した。 心から祝福したい。…
  4. SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…
  5. ※この記事は月刊WiLL 2016年1月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 「鬼女…
WordPressテーマ「SWEETY (tcd029)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

TCDテーマ一覧

イケてるシゴト!?

ページ上部へ戻る