『日本式自由論』序章 自由という言葉

「日本自由論」特集ページ

【目次】
序章 自由という言葉
第一節 日本語の自由
第二節 二つの系譜
第三節 自由の起源

序章 自由という言葉

 自由について。
 自由という言葉について

第一節 日本語の自由

 日本語には、「自由」という言葉があります。
 しかし、現在日本で使われている自由という言葉はひどく曖昧です。現在日本では、自由は素晴らしいものだと言われています。学校でも、そう習いました。しかし、私には何が素晴らしいのか、よく分かりませんでした。この用語を巡る言葉遣いや、人々の振る舞いに対し、常に違和感がありました。
 言葉の意味を知るには、辞書を引いてみるのが第一です。『日本国語大辞典[第二版](小学館)』では、「自由」は次のように定義されています(詳細説明は割愛しています)。

① 自分の心のままに行動できる状態
② ある物を必要とする欲求。需要。
③ 便所。はばかり。手水場(ちょうずば)。
④ (英liberty, freedomの訳語)政治的自由と精神的自由。
⑤ 人が行為をすることのできる範囲。法律の範囲内での随意の行為。

 少しだけ④の自由について補足します。政治的自由とは、政府の権力や社会の圧力を受けずに、自己の権利を執行できることです。具体的には、思想の自由、集会の自由、信仰の自由、移住・移動の自由、職業選択の自由などがあります。また、精神の自由とは、他者からの拘束を受けずに、自分の意志で行動を選択できることを意味しています。

第二節 二つの系譜

 辞書で「自由」を調べてみると分かるように、この言葉は、二つの言語の意味が交わっています。自由という言葉は、本来は漢語です。その昔、日本に伝わり日本語として定着しました。そのため自由は、日本語としての自由の意味を持っています。ですが、明治維新に伴い、自由はフリーダム(freedom)やリバティ(liberty)の訳語に割り当てられました。そのため日本語における自由は、日本語本来の意味と、フリーダムやリバティとしての意味が混在することになりました。もちろん、日本語本来の自由の意味と、フリーダム・リバティの意味が、近しい関係にあれば何も問題はありません。しかし、私には、それぞれの意味するところは、まったく異なっていると思われるのです。
 人格的な唯一創造主「ゴッド(God)」に「神」という訳語を当てたことは、日本の翻訳史上最大の失策であったという意見があります。それに同意しますが、フリーダム・リバティに「自由」という訳語を当てたことも、それに匹敵する失策だったのかもしれません。
 日本語本来の自由は、フリーダム・リバティの意味に侵食され、不正確な言葉に成り下がってしまったように思われるのです。ですから、日本の自由を考えるときには、三つの段階を考えることができます。まずは、日本史における自由です。次に、西洋史におけるフリーダムやリバティとしての自由です。最後に、日本の自由が西欧のフリーダム・リバティの訳語として用いられた後の自由です。

第三節 自由の起源

 日本語の自由という言葉は、元々は漢語からのものです。そのため、日本史の自由を見ていく前に、漢語の「自由」に触れておく必要があります。自由の起源は漢語にあり、「自(みずか)らに由(よ)る」、つまり自己に本(もと)づくという意味を持つ、次の二つが先駆となります。
 一つ目は、『孟子』の[公孫丑下]に〈吾が進退は豈に綽綽(しゃくしゃく)然として余裕有らざらんや〉とあり、その文章に対する後漢の趙岐の注として、〈進退すること自由、豈に綽綽(しゃくしゃく)たらざらんや〉という表現を見つけることができます。綽綽(しゃくしゃく)とは、落ち着いてゆとりがあるさまです。余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な自らに由っているため、肯定的な意味を持っています。
 もう一つは『後漢書』の[皇后紀十下閻皇后紀]に、〈兄弟、権要にして、威福自由なり〉とあります。この自由は、自分の思い通りにする、勝手気ままに振舞うなどの否定的な意味で用いられています。
 この二つの自由を見て分かるように、自由は肯定にも否定にも使われています。この自由は、「束縛の不在」を意味する西欧の「フリーダム」や「リバティ」としての自由とは別物です。そのため、この「自(みずか)らに由(よ)る」という漢語由来の自由について、日本語における用いられ方を見ていくことが必要になります。


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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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