トランプ大統領を生みだしたポリティカル・コレクトネス

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パヨクを代弁するトランプ

 ドナルド・トランプ氏が次期米国大統領に決まったことで、世界はもちろん、日本のWeb界隈も大騒ぎ。テレビで著名人、有識者と紹介されるお歴々が、この世の終わりとWebに悲嘆を拡散します。ネットスラングで「パヨク」と呼ばれる人々です。「パヨク」の語源は左翼にあり、彼らは安保法制やTPPを「対米追従」と批判し反対していました。「自分の国は自分で守れ」と日米同盟の見直しに言及し、TPPには明確に反対するのがトランプ氏。むしろパヨク陣営にとっては好ましい人選のはずなのですが。

 慶応大学教授の金子勝氏は《(略)移民排斥ナショナリストのトランプが世界の中心に登場した。おぞましい現実だが、終わりの始まりです》とツイート。トランプ氏の人種差別的発言は好ましいものではありませんが、それはあくまで米国国内のこと。また、メキシコ国境との間に壁を作る発言にしても、対象とするのは「不法移民」。違法行為を取り締まるのは法治国家としては当然のことでしょう。

 パヨク陣営はなぜ、悲しみに暮れているのでしょうか。それは「ポリティカル・コレクトネス」という政治ムーブメントの敗北が突きつけられたからです。

ポリティカル・コレクトネスとは

 政治的公正性を意味する「ポリティカル・コレクトネス」とは、すべての少数派に配慮して「差別」をなくそうとする政治ムーブメントで、現職のオバマ大統領がとりわけ熱心に取り組んだと言われています。人種、宗教、性別、性的嗜好における少数派を保護するために、多数派に過剰な我慢が強いられ、その爆発が「トランプ現象」の正体、という見立です。

 タレントで弁護士の山口真由氏は昨年夏から1年間、米国ハーバード大学に留学しており、現地で感じた「トランプ現象」を『週刊新潮(2016年11月10日号)』で報告します。人種差別に反対する黒人グループが、大学の公共空間であるロビーを占拠しても、誰も文句が言えない。うっかり抗議して「人種差別主義者」とレッテルを貼られれば、就職が困難になりかねないと口を閉ざすのです。級友が授業中に「同性愛に反対だ」と意見を述べただけで、LGBT団体がクラスに押しかけ、吊し上げたともあります。山口氏はこうした声を「白人であることが原罪なのだ」と喝破します。

消えたメリークリスマス

 原罪とはキリスト教の解釈のひとつで、人は生まれながらに罪を持つというもの。白人で、しかも男性は、存在しているだけで罪で、すべての女性と少数派の赦しを請いながら生きろ、という同調圧力が「ポリティカル・コレクトネス」にはあるのです。

 トランプ氏が「イスラム教」をターゲットにするかの発言を繰り返したことに、眉根を寄せる日本人は多いことでしょうが、そもそも英国を追われたキリスト教一派(清教徒)が、メイフラワー号で辿り着き建国したのが米国とされ、いまでもキリスト教徒が多数派です。しかし、ここ数年の「ポリティカル・コレクトネス」が、老人ホームから「クリスマスツリー」を排除し、街から「メリークリスマス」の文言を消し去ります(週刊現代2016年11月26日号)。どちらも「キリスト教的」だからです。

 そこに登場したのが「トランプ」です。英語の「トランプ」には「切り札」の意味もあり、多数派から漠然とした希望を抱くものが現れても不思議ではありません。

文字通りの意味

 慶応大学 海野素央教授は、昨年夏からフィールドワークとしてヒラリー・クリントン陣営の選挙活動を手伝っていました。米国では認められている戸別訪問で3千数百人の家庭を訪ねたところ、「隠れトランプ」と推測される態度は多いものの、トランプ支持を明言したのはたった一人だったとTBS『ひるおび』で語ります。トランプ支持を明言しないのは、レッテルを怖れてのことでしょう。Web上ではトランプ支持を表明した白人女子高校生に、黒人女子高校生が飛びかかりタコ殴りにし、周囲にいた白人男性が一切止めに入らない動画も拡散されています。「トランプ支持=差別主義者」のレッテルを貼った相手には、弁明の機会すら与えずに攻撃し、排除しても良いというのならば現代に蘇る魔女狩りです。実際、トランプ大統領が誕生してから、Webはトランプに投票した白人が、集団暴行される動画が激増しています。

 こうした「虐げられる多数派」が、「トランプ」にすがる思いを否定できません。それをWebが助けます。どれだけマスコミがヒラリーに肩入れし、トランプを罵倒したとしても、トランプのFacebookを閲覧すれば「我が意」を得ることができたのです。

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西部邁

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