フラッシュバック 90s【Report.4】「ポストトレンディドラマ時代」のリアルとファンタジー

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さて、Report.3では、「東京ラブストーリー」に代表される90年代前半の「トレンディドラマ」が作り出す「なりたい自分」を追いかける世代のことを取り上げました。

仮にこの時期を「トレンディドラマ時代」と名づければ、この時代の終わりは1996年に放送された「ロングバケーション」です。興味深いことに「トレンディドラマ時代」に人気を誇った山口智子と「ポストトレンディドラマ時代」を背負って立つ、SMAPの木村拓哉が共演した作品でもあります。

木村拓哉演じる瀬名がピアニストの役柄だったこともあり、当時はピアノを始める男性が増えました。「ロングバケーション」の翌年、日本テレビ系で放送されていた「ウッチャンナンチャンのウリナリ」では、ウッチャンこと内村光良と勝俣州和の2人が「モテないブラザーズ」と称して、女性にモテるためにピアノをはじめるという企画もありました。

そういう意味では、「ピアノが弾ける=女性にモテる」という観念が生まれるほど、トレンドを作り出したドラマであるわけです。

また、一方で、「トレンディドラマ時代」の終わりを象徴する出来事は山口智子でした。彼女はこの作品の前年に唐沢寿明と結婚し、「ロングバケーション」以降、10年近くドラマの出演からは遠ざかりました。つまり、「結婚」というリアルを優先し、女優というある意味ファンタジーな仕事に対して、一区切りをつけたわけです。

偶然の一致かもしれませんが、このドラマの前後から、「ドラマ」が生み出す「なりたい自分」の力は弱まっていきます。現に、オリコンの年間上位ランキングを確認していくと、「ヒットソング=ヒットドラマの主題歌」という方程式が必ずしも成り立たなくなってくるわけです。

さて、それでは、「トレンディドラマ時代」が終わった「ポストトレンディドラマ時代」とも言うべき、90年代後半はどのような時代だったのでしょうか。

「ポストトレンディドラマ時代」の背景

ここで、少し、データを見てみたいと思います。下図は国税庁の給与所得者の1人あたり給与額を年代別に推移を表したものです。

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おわかりのように、1990年頃から上昇していた給与は頭打ちになります。それどころか、90年代後半には給与が下がる傾向に入っていきます。下図は同じ調査での20代の平均給与をグラフであらわしたものですが、平均給与よりも低い金額で同様に90年代に頭打ちになっています。20代にとっても、今後給与が上がっていく想定が信じられない時代となったわけです。

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平均賃金が下がっている理由はいろいろと上げられます。しかし、仕事が減っていき、若年層の失業率の高まりや非正規雇用が増えていったことは大きい要因の1つです。

別のデータを見てみましょう。下図は内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」の日本企業の海外現地生産比率の推移になります。

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海外に移管されていった産業は大体が、製造業です。イメージとしては工場で働くブルーワーカーの仕事が、90年代を通じて次々と海外へ移管されていったことになります。

また、同時に90年代に入ってから大学進学率も30%台からおおよそ50%台へと上昇します。

極端な言い方をすれば、「トレンディドラマ」で登場人物たちが80年代〜90年代にかけては違う世界に住む「なりたい自分」を投影できたのに対して、産業の変化や賃金の頭打ちなどから、「なれる自分」へと変化したのではないかと言えます。

つまり、ドラマという「ファンタジー」の中に自分の生活との共通項を探す、いわば「リアル」を探す行為が生まれてくるイメージです。

そして、ドラマは「リアルなファンタジー」の性格を強めていきます。

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西部邁

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