リアルとファンタジーの狭間
「ロングバケーション」が「トレンディドラマ」時代の終焉だったとすれば、その作品の次に木村拓哉が出演した「ラブジェネレーション」はポスト「トレンディドラマ」時代の幕開けだった作品ともいえるかもしれません。
現在ではわかりませんが、90年代とはいえ、当時の木村拓哉のような長髪のサラリーマンがいることは現実では考えられませんでしたが、彼の長髪が第1話で松たか子に切られることから話題となりました。
「ロングバケーション」でも流行となった木村拓哉の長髪が次のドラマの第1話で切られる。それ自体が、それまでの「トレンディドラマ時代」と一線を画している意味づけもあります。
また、憧れの世界であるはずのドラマが、「髪を切る」という行為によって、視聴者のリアルにグッと近づけられたのです。それ故、木村拓哉という存在が視聴者にとってのリアルであり、ファンタジーでもあったわけです。
それゆえか、木村拓哉の身につけているものは非常に有名になりました。ローレックスの時計だけでなく、裏原宿系のブランドであるAPEが全国区になったのも、彼が本作中で身につけていた影響が少なくありません。
その他にも、「リアルとファンタジー」が折り混ざった作品が多数現れます。
代表的なところで行くと、観月ありさ主演の「ナースなお仕事」、江角マキコ主演の「ショムニ」、財前直美主演の「お水の花道」、少し毛色は違いますが、田村正和主演の「古畑任三郎」などもこのカテゴリーに入ってくるでしょう。
いずれも、1回完結型のストーリーで話の構造も非常にわかりやすくできています。
20代にとっての憂さ晴らし、10代にとっての憧れ
こうした、リアルとファンタジーの狭間的な作品は20代の視聴者にとっては、憂さ晴らし的な効用があったのではないでしょうか。ちょうど、高齢の方が水戸黄門や暴れん坊将軍を見て「スカッと」するように、予定調和的な終わり方が彼らの日々のストレスを和らげていたのではないかと思います。
しかし、このドラマは当時の10代(中学生~高校生)にとっては憧れの対象だった可能性があります。というのも、NHK放送文化研究所の2009年年報に記載されている、「テレビドラマの「軸」なき変転―20代女性のドラマ受容の考察―」という報告によれば、90年代後半のドラマを20代以上に見ていたのは、当時の13歳以上の10代だったということです。
同報告では、この世代が2000年代に入って、テレビドラマを見なくなったことに対して疑問を投げかけていましたが、必然のような気がします。
本連載での20世紀の終わり(2001年)に中学1年生だった世代はちょうどゆとり教育への移行措置が完了したいわゆる「ゆとり教育第1世代」でもありました。
この「ゆとり教育第1世代」より6〜7歳ぐらい上の世代はちょうど、この「トレンディドラマ」及び「ポストトレンディドラマ」が流行していた時代に10代でした。
そういう切り口で90年代を「教育」という切り口で語っていくのも面白いかもしれません。
ということで、Repor5では「教育」という視点で語ってまいります。
※第5回「フラッシュバック 90s【Report.5】
「ゆとり教育」が生んだ教育と政治の二枚舌」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。
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