※この記事は月刊WiLL 2015年3月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ
続発するテロ事件
フランスの新聞社襲撃テロ事件が、国際社会に大きな衝撃をもたらしている。イスラム教の開祖、ムハンマドなどの風刺画を発表してきた新聞社、シャルリー・エブドに、イスラム過激派と見られるアルジェリア系フランス人兄弟らが押し入り、十二人を射殺した。
彼らはホームグローン・テロリスト(欧米民主主義国家などで育ちながら過激なテロ思想に染まった者)などと呼ばれ、昨年以来、国際社会の注目を集めている多国籍集団・イスラム国(Islamic State)にも、このホームグローン・テロリストが戦闘員として多く参加している。
イスラム国とはどのような組織なのか。この組織を通じて、ホームグローン・テロリストの実態に迫るとともに、今後、起こりうるテロの脅威について分析したい。
ちなみに、イスラム国は国際社会では「イラクとレバントのイスラム国」(ISIL)、「イラクとシリアのイスラム国」(ISIS)などと呼ばれることも多い。
今日、このイスラム国は単なるテロ組織を超え、まるで〝領域〟を自ら支配する軍隊のように行動し、イラク軍やクルド人民兵組織、米軍を中心とする有志連合などと攻防を繰り広げるほか、イラク・シリア各地でテロ事件を繰り返し起こしている。
そして財政的、軍事的、組織的な強大化に成功したイスラム国の影響力は、〝組織〟として活動するイスラム国の範囲(シリアとイラク)を超え、一種のブランド、イデオロギーとして機能し、アフリカや欧米、アジア・太平洋地域にも拡大している。
特に注目すべき事態は、イスラム国の建国が宣言された二〇一四年六月以降、イスラム国の影響を受けたとされる個々人が拳銃を発砲したり、人質を取って立て籠もったり、さらにはイスラム国への資金援助やリクルート活動に従事したことで逮捕される事件などが各地で繰り返し発生していることだろう。
オーストラリアで十五人
たとえばオーストラリアでは二〇一四年九月、現地警察がシドニーとブリスベンで対テロ一斉家宅捜査を実施し、一般市民を狙った無差別殺人テロ計画をしていた容疑で十五人を逮捕した。その計画を指示したのは、イスラム国に幹部として参加するアフガニスタン移民のオーストラリア人であったとされる。
続いて同年十二月十五日には、シドニー中心部のビジネス街マーティンプレイスのカフェで、銃を持ったイラン出身の男(五十歳)が店内の店員や客など十七人を人質に取って立て籠もった事件が発生。アボット首相との直接対話を要求していたとされるが十六日未明、警察が店内に突入し、銃撃戦を繰り広げた末、男を射殺した。
この男とイスラム国などの過激派との直接的な関係はなかったとされているが、男はイスラム国の旗を店内に持ってくるよう求めたという。 一方、東南アジアにおいても同様のケースが報告されている。まずフィリピンにおいて、同国南部スールー諸島を拠点とするイスラム過激派組織アブサヤフの幹部は、二〇一四年七月にイスラム国への支持を宣言した。
十月には、同年四月にフィリピン西部の沖合で拉致したドイツ人夫婦を解放する条件について、身代金約五億九千万円の支払い、またドイツの米軍などによるイスラム国への空爆に対する支持の撤回を要求した。
また、東南アジアのなかでも比較的治安が良く、9・11以降も大規模なテロ事件が起こっていないマレーシアでも昨今、治安当局によるIS関係者の逮捕事例が報告されている。
たとえば十一月二十二日、マレーシア国家警察はクアラルンプール、それと隣接するセランゴール州で実施した一連の取り締まり作戦で、イスラム国への資金調達をしていた容疑でマレーシア人三人を逮捕した。
逮捕された三人はイベント会社のマネジャーや役所の事務員などで、一見、イスラム国とは関係がないように見えるが、同組織を支援するためにフェイスブックを通じて資金調達活動を行い、さらにイスラム国の活動への参加を希望する国内のテロ要員らをシリアやイラクに送るための渡航費の寄付を募る活動も行っていたとされる。
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