近代を超克する(15)対デモクラシー[8] バークとトクヴィル

「近代の超克」特集ページ

 今回は、保守思想家と呼ばれることもあるイギリスの政治家バーク(Edmund Burke, 1729~1797)と、フランスの政治家トクヴィル(Charles Alexis Henri Clrel de Tocqueville, 1805~1859)の著作を参照します。

バークの世襲王制

 バークはフランス革命に際し、近代保守主義の先駆となった『フランス革命の省察』を著しています。世襲王制について彼が述べていることは、論理的に説得力があります。
 継承の歩みこそイギリス憲法の健全な習わしであり、王位継承は法による世襲継承だと彼は考えています。継承されてきた法は、王と人民が同じ一つの国家組織を継承して行く限り、等しく両者を拘束するというのです。王位継承によって、共通の権威が可能になり、国家全体の共通の約束をも可能にします。このことは国家にとって、大きなアドバンテージの一つに成り得るでしょう。

バークの革命観

 バークは、変更を加えるということは、それは何かを保守するためだと述べています。この見解は重要だと思われます。そのため、バークにとって革命は最後の手段に置かれているのです。
 改革は、先例や権威や実例との類比の上に注意深く行われるべきだと彼は述べています。国家は、生きている者たち、死んでいった者たち、これから生まれてくる者たちの組合だという考えが、ここにはあるのです。
 この認識が世襲王制における継承によって保たれるということは、十分に考えられることです。一方、民主政治における判断によって捨て去られるという事態も、十分に考えられます。少なくとも、その可能性には注意を払う必要がありそうです。

バークの民主政批判

 バークは、民衆の責任感の欠如を指摘しています。名声や評判という抑止力に対する責任感の欠如は、検討に値します。
 民主政治への批判では、あらゆる処罰は民衆全体を保全するための見せしめであるがゆえに、民衆全体は如何なる人間の手によっても処罰の対象とはならないことが指摘されています。つまり、政治体の内部において民衆全体を処罰することは不可能であるため、民主政治における真の責任者への処罰が不可能だということです。これは、政治における欠陥です。
 彼は、歴史上の賢者の意見を参考にし、絶対的民主政は絶対的王政に劣らず正統な統治形態には数え難いと考えているのです。例えば、民主政では、多数者が少数者に対して最も残酷な抑圧を加えることができます。多数者の下で悪に苦しむ人々は、まさに人類から見捨てられたかのようだというわけです。民衆の暴走は、多数者による少数者への残酷な抑圧を生むものなのです。

トクヴィルによるデモクラシーと進歩主義

 トクヴィルの著作に『アメリカのデモクラシー』があります。全二巻構成であり、第一巻は1835年、第二巻は1840年に発売されました。
 第一巻でトクヴィルは、デモクラシーを阻止しようと望むのは神への挑戦に映るとまで述べています。デモクラシーが平穏のうちに法制と習俗を支配するというのです。よって、トクヴィルはデモクラシーの明確な肯定者であり、推進者であることが分かります。
 デモクラシーについて彼は、アメリカという国を特別視し、民主政治は世の中の発展の最後にしか現れないと語っています。一種の進歩主義が表明されていることが分かります。彼は、最大多数の福祉に役立つという観点から、民主制が目指すところは貴族制のそれより有益だと考えているのです。
 第二巻においても、デモクラシーの擁護は続きます。民主革命は一つの不可抗な事実であって、これと闘うのは望ましくなく賢くもないという見解を彼は固く守っています。彼はデモクラシーの敵対者ではないからこそ、民主社会に対して厳しい言葉を向けるのだと述べています。それゆえ彼は、民主政治の欠陥を詳細に語るのです。
 例えば、デモクラシーは祖先を忘れさせ、子孫の姿を見えなくし、各人を孤独にしてしまう恐れが指摘されています。また、物質的享楽の好みを助長し、マナーに縛られないようになる可能性も指摘されています。
 ちなみに彼の進歩主義は、あらゆる人民が同じ利害と同じ欲求を持つ極点を想定するにいたります。人類の普遍的欲求が共通の尺度となり、世界には善悪という単純で普遍的な観念のほかには何もなくなるというわけです。そのとき名誉は弱まり、消えるかもしれないと語られています。
 これは、間違っている上に、危険で恐ろしい考えだと思われます。

→ 次ページ「トクヴィルの民衆観」を読む

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西部邁

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