なぜISに惹かれるのか
では、なぜ世界各地でイスラム国にシンパシーを覚える人々が事件を起こしているのか。そこにはよく議論される社会経済的な側面の他にも、グローバル化の深化、イスラム国の巧みなネット戦略などが影響しているとみられる。
たとえば、それに関連する問題として外国人戦闘員の存在がある。日本でも北大生がイスラム国への渡航を目論み、警視庁の事情聴取を受けるという事件があった。
キングスカレッジロンドンICSRから二〇一三年十二月に発表された報告書によると、世界七十四カ国から一万一千人以上にわたる外国人がシリアへ流入し、欧米出身者も二千八百人以上に上るとされる。
そのうちアルカイダ系組織のアルヌスラには全体の一四%が、イスラム国には全体の約五五%が流れ、他の世俗的な組織に流れる者も少数ながらいるとされる。
一方、最近の欧米メディアの情報によると、外国人戦闘員で最も多いのはチュニジアの約三千人で、以下サウジアラビアの約二千五百人、モロッコの約一千五百人、ロシアの約八百人、フランスの約七百人、イギリスの約五百人、トルコの約四百人、ドイツの約三百人、米国の約百人などとなっている。
他にもオーストラリアや中国、インドネシア、フィリピン、マレーシアなど多くの国からイスラム国の活動に参加しているとみられる。
では、彼らはいったいどのような動機でイスラム国に参加しているのか。昨今の情勢や論文などを分析すると、以下のような動機を導き出すことが可能だ。
ネットが組織拡大の一助
①シリアやイラクで発生する惨事をTVやネットを通して知り、
弱者救済などボランティア精神を持って参加した者
②特に宗教的な過激思想に染まっておらず、単に強い冒険心で参加した者
③母国での社会経済的不満から、
純粋にイスラム国などが掲げるサラフィージハード主義に染まった者
④母国での社会的不満以上に、宗教的な正義感と使命感から参加する者
⑤高額な給与に魅了された者
⑥訪れたものの、そこに溶け込めないが恐怖心から戦闘活動に参加せざるを得ない者
このようにみると、イスラム国はさまざまなバックグラウンドと動機を持った者たちの集合体であると考えられる。
また、外国人戦闘員の問題はイスラム国だけに言えるものではなく、AQAP(アラビア半島のアルカイダ)やアルシャバブなどのアルカイダ系組織にも多くの外国人、また欧米人が加わっていた。しかしなぜこのイスラム国には、いままでにない規模で多くの外国人が流入するようになったのか。
それにはシリア内戦の深刻化、イスラム国の多言語(英語、アラビア語だけでなく、フランス語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、アルバニア語など)で発信するという広報戦略、イスラム国という名前の開放性、圧倒的な軍事的・財政的基盤などいくつかの理由が挙げられるが、その一つとしてグローバル化の拡大、深化が大きく影響している。
近年、グローバル化の影響は世界各地に拡がり、また安価な値段で国境を越え、無料でSNSなどを利用することができるようになったことから、グローバル化の影響を日常的に受ける世界人口も増加の一途を辿っている。
我々日本人はグローバル化の良い部分にだけ着目しがちであるが、当然のごとく、グローバル化においてはリスクも国境を超える。
それがアルカイダのような国際的なネットワーク、ブランドを有する存在を生み出し、さらには今回のように国家のコントロールが脆弱なスペースに入り込み、一定の土地を自らでコントロールする、イスラム国という存在を台頭させたといえる。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。