人材育成というのは、企業にとって、永遠のテーマです。「経営学の父」と呼ばれたドラッガーも企業の第一の責任は、存続することだと説いています。
しかし、近年は「第二新卒」なる言葉が出てくるように、新卒で入社しても3年と持たずに退職し、再就職を行う若者たちも増えています。企業の未来を担う人材を獲得する人事部門にとっては、多大なコストをかけて獲得したにも関わらず、すぐに辞められては、元も子もありません。
その中で、今回取り上げたいのは、常見陽平著「エヴァンゲリオン化する社会」です。
著書では、近年の労働環境や社会環境が、20年前に放送されたエヴァンゲリオンと似通ってきたと述べています。様々な類例が述べられているのですが、私が興味を抱いたのは、エヴァのパイロットである、シンジ、アスカ、レイを取り上げ、今の若手社員や若年労働者とかぶせているところでした。
今回は、その類型を踏まえつつ私なりの解釈を加えて、いまどきの新卒社員の特徴を挙げ、それぞれの対策も考えてみたいと思います。
~「巻き込まれ型一念発起タイプ」~碇シンジ
碇シンジは初号機のパイロットです。彼の父、碇ゲンドウはネルフというエヴァを運営している組織の総司令官であり、エヴァ初号機の開発者、碇ユイがシンジの母親です。
母親が不慮の事故で亡くなり、親戚のところを転々としていたシンジでしたが、突然、ゲンドウに呼び戻されたところから、ストーリーが始まります。
ネルフの中に入ってすぐ、父親のゲンドウから「エヴァに乗れ」と言われます。もし、ここでシンジが乗らなければ、年齢の変わらないパイロットである綾波レイが全身ボロボロにも関わらず、エヴァに乗ることになってしまう。
この流れで有名なセリフである「逃げちゃダメだ」がシンジの言葉から発せられるわけです。
このようなタイプを「巻き込まれ型一念発起タイプ」と名づけたいと思います。自分の欲などがあまりない一方で、周囲からふられた理不尽なことに燃えて、一念発起するタイプです。
ある意味、主体性はあまりないタイプですが、仕事はこなしてくれるタイプですが、ある日突然、燃え尽きることもあります。アニメであれば、ネルフの上司の立場である葛城ミサトが自宅に居候させているので、プライベートも面倒を見ています。
「巻き込まれ型一念発起タイプ」は適度にプライベートをコントロールしてあげないといけない面もあるといえます。
~「スマホ中毒のできる子タイプ」~綾波レイ
綾波レイは、シンジの前にエヴァ初号機のパイロットを務めていました。彼女は「私の代わりはいくらでもいるもの」という言葉に象徴されるように、碇ユイをモチーフにしたクローンです。
ちなみに常見氏の著書では、「優秀なスペックを持つがゆえに取替え可能になった大卒就活生たちの象徴」というような言い方をしています。
確かに、そういう見方もあるかもしれないのですが、私はどちらかというと、綾波のプライベートにかなり謎が多いところに注目したいです。アニメの中でも雑談もせず、表情に変化がほとんどありません。
例えるならば、仕事も淡々とソツなくこなすけれども、休憩時間はずっとスマホをいじっていて、スマホを通じない他者とのコミュニケーションをほとんど排除しているタイプということで「スマホ中毒のできる子」と名づけました。
こういうタイプと心を通じ合うのは先輩や後輩には難しいかもしれません。
ただ、アニメの「ヤシマ作戦」の中で、同年齢であるシンジが仕事を通じて、綾波と心を通い合わせていくシーンがあります。「スマホ中毒のできる子」も同年齢の人々と社内プロジェクトなどを組ませると意外と、仲間意識を持って動き始めるかもしれません。
~やりたいことで活躍できない高学歴タイプ~惣流アスカラングレー
ドイツ帰りで14歳にして、大学を卒業、複数の言語を操ることができる、エヴァのパイロットが惣流アスカラングレーです。新劇場版では、式波アスカラングレーになっているかと思います。
他人がうらやむほどのスペックを持っていながら、エヴァのパイロットとしてはなかなか功績が残せず、自分よりも下だと思っていたシンジの方がみとめられていくわけです。しかし、プライドだけは一丁前で、エヴァのパイロットとしてのモチベーションも高いわけです。
結論から言うと、アスカは「やりたいことで活躍できない高学歴タイプ」です。
一説によると、SONYが90年代、新卒の採用試験で、「やりたいことは何ですか?」と聞いたことが始まり、今では、どこの会社でも新卒に対して入社後のキャリアプランなどを聞くようになっています。
アスカも同じく「やりたいこと」を追い求め、努力をし続けてきました。その根底には、母親に認められたいというモチベーションが根底にあったわけですが。
しかし、エヴァのパイロットになるために、本当に必要なキャリアをアスカが歩んできたかは何ともいえないわけです。自分のやりたいことに自分の積み重ねてきたことが、直接的に結びつかず、さらに、自分よりも努力してこなかったはずの同期がどんどん功績を残していく。
しかも、自分が選んだ「やりたいこと」だから逃げることも言い訳することもできず、さらに「やればできた経験」に基づいて、自分を追い込んでいきますが、最終的には、母親と同じように、精神を病んでいってしまうわけです。
周囲を見渡すと、「何でそんなキャリアを積みながら、ここにいるの?」といいたくなるような人材がいるかもしれません。社会経験を積んだ人物であれば、何か考えがあるかもしれませんが、アスカの様に初々しい気持ちで「やりたいこと」を追い求めて、そこにいるのだとすれば、違った役割や仕事を与え、適材適所に配置し、これまでの自信やキャリアを少しでも活かせる道を提供してあげる方がよいかもしれません。
※第20回「フラッシュバック 90s【Report.20】民主主義が成長率に狂わされ始めた時代」はコチラ
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