将棋棋士は変わった?

現代人は小粒になった?

 現代人は小粒になった、とよく言われます。

「昔の人間はもっとスケールがデカかった。それにひきかえ現代人はどうだ。どいつもこいつも小さくまとまりやがって。おかげで大物と呼べる人間がいなくなっちまった」
―年配の男性がこうボヤくのを、私は何度も耳にしたことがあります。

 私自身は昭和の末に生まれた若造なので、かつての日本社会は頭の中で想像することしかできませんが、なるほど彼らの言うことも一理あるのかなあ、とは思います。
 
 将棋界を観察していると、将棋棋士の性質が昭和の頃と現代とでずいぶん変化したように感じられるからです。

 かつて、棋士は常人には近づきがたいオーラを放っていました。

 たとえば、昭和の大名人・大山康晴十五世名人(1923-1992)や、彼の宿命のライバルであった升田幸三・実力制第四代名人(1918-1991)がそうでした。

 昭和の棋士たちにはまた、「無頼」の匂いも漂っていました。

 盤外での派手な活動で知られた芹沢博文九段(1936-1987)や、真剣師(賭け将棋で生計を立てる人々のこと)から転じてプロ棋士となった花村元司九段(1917-1985)など、見るからに「勝負師」然とした人たちが大勢いたのです。

 今の将棋界には、しかしながら、そういったタイプの人たちがいない。
 もっとも、単純に「小粒になった」というのとも違います。

 現在の将棋界には、言わずと知れた七冠王・羽生善治名人(1970- )というスーパースターがいます。そして彼と同世代で「羽生世代」と称されるトッププロたちも何人もいますし、その下の世代にはこれまたトッププロである渡辺明二冠(1984- )、糸谷哲郎竜王(1988- )らがいます。

 しかし、彼らにはかつての昭和の棋士たちのような「勝負師」然とした雰囲気は、あまり感じられません。皆、サラリーマンか理系の大学院生のような雰囲気の人たちばかりなのです。

「かわいい」永世名人の別の顔

 ニコニコ生放送(ニコ生)にてタイトル戦の中継が行われ、また「将棋電王戦」や「リアル車将棋」(後述)などのイベントがドワンゴ主催のもと大々的に開催されるようになった今日、ある棋士がネットユーザーから人気を集めるようになりました。

 上述の「羽生世代」の一人である、森内俊之九段(1970- )です。

 森内九段は、大山十五世名人と同様に「永世名人」(※)の称号を有する、れっきとした将棋界の第一人者です。にもかかわらず謙虚で全く飾り気のない性格であることから、ネットユーザーの間で「かわいい」と評判になったのです。「かわいい」森内九段と、威厳に満ちた大山十五世名人とでは、同じ永世名人でも随分と雰囲気が違いますね。

※名人のタイトルを通算5期以上獲得した棋士に与えられる称号。この称号を有する棋士は引退後、江戸時代からの世襲制の数字を引き継いで「○世名人」と名乗ることができる。

 しかし、森内九段は本当に「かわいい」だけなのでしょうか。

 森内九段と、彼の小学校時代からのライバルである羽生名人とは、これまで名人戦の番勝負を計9回戦っています。彼らの対局の様子を間近で観戦した人たちは皆一様に、「(対局者二人には)常人には近づきがたいオーラがあった」と証言しています。

 一見「かわいい」現代の棋士たちも、実のところ、対局中はかつての昭和の棋士たちと同じように、常人を圧倒するような強い気迫を放っていたのです。

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西部邁

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