将棋棋士は変わった?

ゲーム変われば…

 最初の章で、私は《かつての昭和の棋士たちのような「勝負師」然とした雰囲気》が現代の棋士からはあまり感じられないと書きました。

 ですが、これはあくまで普段の彼らの印象にすぎません。いざ盤を挟んで対局すると、彼らも、普段は隠れている「勝負師」としての顔をのぞかせます。

 これについて、私は以下のように考えています。

 あるゲーム(この場合は、将棋)の中ではものすごいプレイヤー(名人)であったとしても、別のゲームではただの凡庸なプレイヤーに過ぎない。これ自体は、実は昔も今も変わらない、普遍的な現象なのです。

 しかし、昭和の頃までは各々のゲームが隔離されており、あるゲームのプレイヤーが別のゲームでプレイさせられることがなかった。そのことがプレイヤーのカリスマ性(名人の威厳)を支えてきたのです。

 大山十五世名人にしろ升田実力制第四代名人にしろ、本当は勝負師以外の一面―「かわいい」部分はあったのではないか、と私は考えています。ただ昔は、彼らのそうした一面が表に出ることはなかった。

 ところが現代では各ゲーム間の垣根が崩れ、あるゲームにおける超人的なプレイヤーが、別のゲームではただのサラリーマンっぽい「かわいい」おじさんになってしまう、という事態が頻発するようになった。

 だから、棋士の性質が変化したように見えてしまうのです。でも、本質的な部分では、彼らは常に「勝負師」であり続けている。

 2015年2月8日に開催された、実物の車を将棋の駒に見立てて対局するという前代未聞の企画「リアル車将棋」。羽生名人と関西若手のホープ・豊島将之七段(1990- )の白熱した対局の裏でネットユーザーから熱い注目を浴びたのが、糸谷竜王の「食レポ」でした。

 糸谷竜王には、食べたスイーツの感想をグルメレポーターばりに言葉巧みに表現できるという意外な特技があり、この日も対局者に供されるおやつの食レポを任されたのです。

 ネット上では彼の食レポを称賛するコメントの一方で、「将棋界の品位が落ちる。大山(十五世名人)の時代だったらありえないこと」といった意見もちらほら見受けられました。

 でも、どうでしょう。実は昭和の棋士たちも内心ではひそかに食レポとかやりたかったんじゃないかなぁ―私はそう思っているのです。

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西部邁

古澤圭介

古澤圭介フリーライター

投稿者プロフィール

1984年、静岡県生まれ。横浜国立大学工学部卒業。ナショナリズム、ジェンダー論、言語学、映画、アニメ、将棋など幅広い分野に関心を持つ。

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