「終活」としてのお焚き上げ ―我々は人形、ぬいぐるみとどう別れるべきか

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お焚き上げの思い出

 まずは私のプライベートな体験から話を始めることをお許しください。
 私が小学生のころのことです。不要になった古い人形を処分することになりました。妙に信心深い一面のある母は、「お人形をそのまま捨てると祟られそうで怖いから、ちゃんとお人形の供養をやってくれるお寺さんに持っていこうね」と言います。そのころの私はまだ子供だったので、「供養」という言葉の意味がよくわかりませんでした。
 母に連れられて寺院まで行くと、そこにはすでに他の人々が供養のため置いていった人形たちがずらりと並んでいます。我々もそのなかに我が家の人形をそっと置き、寺院を後にしました。そののち、母の話から、どうやらお坊さんがお経を唱えながらそれらの人形を焼くことを「供養」と呼ぶらしいことが、おぼろげながらわかったのでした。
 人形やぬいぐるみなどを、このように燃やして供養することを、「お焚き上げ」といいます。お焚き上げは、人形などを燃やすことによってその魂を天国へと送り届ける、という意味をもった宗教的行為なのです。
 上で述べた私の人形供養の体験は、1990年代前半のことでした。当時はまだ一般の寺社でも普通にお焚き上げを行っていたのです。
 ところが現在、寺社が人形などのお焚き上げの依頼を拒否する、というケースが増えているといいます。いったいどうしてでしょう。

お焚き上げができない?

 これには、日本社会における環境意識の高まりが大きく関係しています。
 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」―通称「廃棄物処理法」なる法律があります。この法律はこれまで幾度となく改正されてきましたが、2001年の改正により、廃棄物の野外焼却―すなわち「野焼き」は、原則として禁止されることになりました。野焼きのような比較的低温での燃焼では、有毒物質ダイオキシンが発生する恐れがあるからです。
 この法改正で影響を受けたのが、意外にもお焚き上げの現場でした。現代の人形には塩化ビニルやプラスチックでつくられたものも多く、これらのお焚き上げの際にダイオキシンが発生する恐れがあるのです。寺社がお焚き上げの依頼を拒否するようになったのには、このような野焼きの禁止が背景にあります。
 ただし、廃棄物処理法における野焼きの禁止には、実は例外が設けられています。それは、宗教行事です。廃棄物処理法施行令第14条では「風俗慣習上又は宗教上の行事を行うためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」は許容されているのです。この「宗教上の行事」には、お正月のどんど焼き、そしてお焚き上げも含まれます。
 したがってお焚き上げは、厳密にいえば現在でも禁止されているわけではありません。しかし法律上例外として許容されているとはいっても、やはり人口が密集している都市圏でお焚き上げを行えば、ダイオキシンの発生を恐れる近隣住民からのクレームは避けられないでしょう。都市圏では、もはや従来のようなお焚き上げは難しくなってしまったのです。

現代のお焚き上げ事情

 お焚き上げがダメだというのなら、愛着のある人形、ぬいぐるみをいったいどう処分すればいいのでしょう。
 これらを単に「廃棄物」とみなすのであれば、可燃ごみとして捨てる、ということになるのでしょう。が、これまで一緒に過ごしてきた人形、ぬいぐるみが「燃えるごみ」というのは、やはり抵抗がありますね。そこで、いくつかの寺社、遺品整理業者は、新しいかたちのお焚き上げに乗り出しました。
 首都圏のある寺院では、野焼きではなく、ダイオキシンを排出しない特別の焼却炉を設置し、そのなかでお焚き上げを行っています。
 またある寺院では、山間部にある同寺院の敷地まで人形などを持っていき、そこでお焚き上げを行っています。山間部であれば、周辺の民家からのクレームを心配する必要もないというわけです。
 最近では、寺社でなく、遺品整理業者が僧侶同伴のもとお焚き上げを行うというケースも見られます。もちろんこの場合も、ダイオキシンを出さない特別の焼却炉でお焚き上げを行うのです。
 あるいは、「そもそも燃やさない」という選択肢すらあります。どういうことかというと、要らなくなった人形、ぬいぐるみを回収して僧侶が読経供養したのち、それらをお焚き上げせずに途上国の子供たちに寄付する、というサービスが登場しているのです。

「終活」としてのお焚き上げ

 家族とは、社会を構成する最も基本的な単位です。しかし、その構成は時代とともに変化してきました。
 賛否がわかれるところでしょうが、これからは同性愛者のカップルというかたちの家族だって考えられますし、人間だけでなく犬猫などのペットをも家族の一員とみなす考えも広まっていくことでしょう。
 現にペットに対しては、人間なみの葬儀を行うのが当たり前となりつつあります。いまやインターネットの検索サイトで「ペット」と入力すると、検索候補に「ペット 火葬」と表示されるほどです。
 同様に、これから先、人形やぬいぐるみも家族の一員とみなす考えが広まっても、なんの不思議もありません。
 就職活動の略語「就活」をもじった「終活」なる言葉も、いまではすっかり市民権を獲得しました。近い将来、人間やペットだけでなく、人形やぬいぐるみの「終活」についても真剣に考えるべき時代が到来することでしょう。
 すなわち、「終活としてのお焚き上げ」が求められるときがやってくるのです。

西部邁

古澤圭介

古澤圭介フリーライター

投稿者プロフィール

1984年、静岡県生まれ。横浜国立大学工学部卒業。ナショナリズム、ジェンダー論、言語学、映画、アニメ、将棋など幅広い分野に関心を持つ。

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