フラッシュバック 90s【Report.29】核兵器に思考停止してきた純粋国家・日本

「フラッシュバック 90s」特集ページ

「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」

ご存知の方も多いかもしれませんが、広島市の平和記念公園に設置されている原爆死没者慰霊碑に刻まれた文章です。

この文章を見て、パール判事はなぜ、日本人が原爆で犠牲になった日本人に謝罪をしているのかと非難したそうです。ちょうど、主権を取り戻した翌年、1952年のことでした。

その精神は90年代になっても変わっておらず、私が1999年に修学旅行で広島に行った際、事前学習で平和の誓いの文を書かされました。そのやり方も謎のですが、各人が書いた文章を編集委員がいいところを取って抜粋し、学年の文章にするというものでした。

その中に、このような文言がありました。

1945年8月6日、空から落ちてきた原爆は日本がしてきたことに対する、天の罰だったのかもしれない。

間違いなく、パール判事が見ていたら、愕然としそうな文章を世紀末に生きた小学生たちは書いていたわけです。

冷戦が終わったのに始まった核武装

90年代というのは、国際的に見ると、ソビエト連邦の崩壊から始まりました。
当時の言説としては、様々ありましたが、アメリカの一極支配の時代が訪れるだろうという流れが非常に強く、アメリカ型金融危機や、911テロ後即座に、「アメリカ支持」を表明するにいたった訳です。

ただ、世界はシビアに考えていました。特に衝撃だったのは、1998年にインド・パキスタンがお互いの軍拡競争の一環として、核実験を行い、核兵器の保有を行ったのです。

インドもパキスタンも核不拡散防止条約や包括的核実験禁止条約には未加入であり、核兵器や原子力技術保有に対して、国際的な足かせはありませんでした。

アメリカ一極社会の行く末

それまでの冷戦というのは、アメリカ対ソビエトという対立に経済体制やイデオロギーの対立が含まれ、緊張感がある一方で非常にわかりやすいルールのもと運営された戦いでした。

そして、アメリカ・ソビエトという双璧がそれぞれの勢力拡大のためには、世界戦略として、西側あるいは東側諸国の政治・経済・軍事に多大な影響を与え続けたわけです。

ただ、ソビエトが崩壊し、東側諸国のイデオロギーや体制が変更されていくと、アメリカの世界戦略が大きく変更されることになりますが、全世界に散らばった米軍施設は維持され、その費用だけでも多額の予算が必要でした。

インドやパキスタンの核武装はアメリカが世界戦略を変更するリスクへの管理としてとり行われました。現に、2016年の現在ではアメリカの国防費削減は、大統領関係なく、基調路線になっており、インド・パキスタンの核実験はある意味で正解だったわけです。

90年代の日本の議論

そうして、アメリカ一極社会の行く末を鑑みて、インドやパキスタン、ヨーロッパなどが様々な取り組みを始めていった90年代、日本は何の議論をしていたのでしょうか?

核武装に関していえば、1996年に原爆ドームが世界遺産へ登録されています。ただ、この原爆ドームの世界遺産登録に関して、アメリカは反対の立場をとり、中国共産党は審議を棄権しました。

この時点で、核保有をしている、5大国のうち、2カ国は原子爆弾により日本が受けた被害に対して、ネガティブな反応を捕っているのです。しかも、アメリカは日本の安全保障にネックを握っており、一方の中国共産党は、90年代後半以降の経済成長の際、日本への外交カードとして、さきの大戦の戦争責任を持ち出してきたわけです。

原爆ドームを核兵器が人類に及ぼす影響を記憶に留めることに反対している点でアメリカと中国共産党は何からの核兵器を用いることをためらわないということです。現にイラク戦争では、アメリカ軍は劣化ウラン弾を用いていましたし、中国共産党は北朝鮮の核武装を事実上容認し、支援していました。

そういう背景においても、日本は世界の核武装に対して現実的な議論を始めていたわけではなさそうです。

例えば、1999年、西村真吾氏が防衛政務次官の際、核武装発言をしたということが論議を呼び、更迭されるにいたりました。

2000年以降は、故中川昭一氏が皮肉を込めて、日本では核兵器を持つことはおろか、持つか否かの議論をすることすらタブーとなっていると批判していました。

90年代のツケが回ってくるころ

そういう意味で、現在抱えている外交問題というのは、実は90年代に巻かれた種が非常に多いのではないかと感じられます。

そして、多くの国民は根本的には、90年代の「純粋国家」の頭のままなのではないかと思います。

アメリカがいつまで頼りになるのかもわかりません。今一度、自分の足で地に立つことを考え直す、転換期が来ているでしょう。


※第30回「フラッシュバック 90s【Report.30】規制緩和の代償・自己責任論~失われていく慣習~」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

西部邁

神田 錦之介

投稿者プロフィール

京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。
大切なことを伝えることとエンターテイメントは両立すると信じ、「ワクワクして、ためになる」文章をお送りします。

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