“パヨク”ってなんだ? 最近目にするネットスラング解説

ネトウヨの対義語

 「ネトウヨ」とは「ネット右翼」を略したネットスラングでしたが、いつのまにか一般用語として流通しています。政治信条における左右の分類は、フランス革命後の議会において、対立する政治勢力の座席配置を語源とし、右があるなら左もなければバランスがとれません。いま「ネトウヨ」と対を成す、左の呼称は「パヨク」。ネット界隈で目にする機会が増えました。今回はその「パヨク」の語源を辿ってみます。

 パヨクは2015年の11月に誕生します。中東難民を風刺した作品で注目を集めたイラストレーター「はすみとしこ」氏のFacebookに、「いいね!」を贈ったユーザーを「レイシスト(差別主義者)」と断定し、実名、出身校、勤務先をまとめたリストがネット上に公開されます。作成したのはK氏。彼がパヨクの語源です。ネットでは実名が晒されていますが、ご本人はいまも「反安倍闇のあざらし隊」という匿名アカウントで暗躍を気取っているので、本稿ではイニシャルに留めておきます。

パヨクの生まれた日

 K氏は「在特会(在日特権を許さない市民の会)」の行動阻止を掲げる「しばき隊(現在は対レイシスト行動集団、略称C.R.A.C.と称していますが、本稿では“しばき隊”)」に所属。「しばき隊」は在特会に対峙する組織として生まれ、いまでは異なる意見やわずかな批判者のすべてに「ネトウヨ」とレッテルを貼り攻撃対象としています。なお、「しばき」とは関西弁における「殴る、叩く」を意味すると思われます。

 彼らは敵とみなしたユーザーの情報をまとめては、ネット上に晒し、賛同者らに攻撃を呼びかけることを常とし、先のリストも同じ主旨で作成され「はすみしばきプロジェクト」と名づけられます。個人情報保護法違反ではないかというユーザーからの指摘に、K氏はFacebook上に公開されている情報だから問題ないと反論する一方で、Facebook上の情報を集める行為はFacebookの内規に触れているという都合の悪い指摘は無視します。 

強すぎる自己顕示欲

 匿名アカウントでリストを公開した翌日、K氏の個人情報が晒されます。実名や住所と共に、ネットセキュリティ会社で要職を務め、一般社団法人日本スマートフォンセキュリティ協会のメンバーで、さらに勤務先のリソース、人脈を駆使して個人情報を収集していると喧伝していたことも発覚。セコムのような警備会社が、その警備ノウハウをもって泥棒に入るようなものです。

 個人情報が特定されたきっかけは、匿名アカウントに並ぶ数々の自慢話でした。自己顕示欲がよほど強いのでしょう、労せずに悪行が発掘され拡散されていきます。決定打となったのは、「電脳アイドル」として注目を集めた「千葉麗子」氏との交流です。かつて「脱原発」で共同戦線を張っていた頃、彼女への挨拶として投げられた言葉が「ぱよぱよちーん」。還暦手前の男性が、二廻りほど年下の女性に対し、執拗に「ぱよぱよちーん」と繰り返す様は、ネット民の下世話な好奇心を燃え上がらせるに充分でした。

抹殺と暴露の泥沼

 千葉麗子氏が左派的活動から距離を置くと、K氏は彼女を罵りはじめます。これも「パヨク」の特徴。沈黙を持って決別を表明するのではなく、執拗な攻撃で抹殺を試みます。ところが、千葉麗子氏が、罵倒に暴露で応戦したことで、拡散された情報がK氏のものと確定。そしてK氏の左翼的活動と接続し「ぱよぱよちーんな左翼」から「パヨク」が生まれます。なお、千葉麗子氏はこの4月16日「さよならパヨク」を青林堂より発刊しています。

 K氏は勤務していたセキュリティ企業の退社を余儀なくされ、すっかり身元のばれている匿名アカウントを停止したことで事態は沈静化するかと思われました。ところが「しばき隊」の仲間と思われる匿名アカウントが、セキュリティ企業にまだシンパが残っていることを匂わせたことで、ネトウヨによるパトロールが強化されます。

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西部邁

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