台湾から届いたデス声のラブコールーCHTHONIC(ソニック)「玉砕」ー

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日本を応援する台湾メタルの曲とは?

 今回は、曲の紹介をしましょう。CHTHONIC(ソニック)の「玉砕」(Broken Jade)という曲です。ソニックは、台湾ブラック・メタルシーンの草分け的な存在で、同曲は『高砂軍(TAKASGO ARMY)』(2011)というアルバムに収録されています。最近、知人から教えてもらって、いたく心を動かされたので、ASREAD愛読者の皆さんにもぜひ聴いていただきたいと思ったのです。御託を並べるのは後にして、まずは、聴いてみてください。

 いかがでしょうか。いささかなりとも心を動かされたでしょうか。以下の私の「御託」にも耳を傾けていただけると幸いです。

 はじめてこれを聴いたとき、なかば無意識のうちに自分に対してひた隠しにしていた、特攻隊にまつわる激しい情念を鷲掴みにされて、目の前に「あんた、これだろ」と突きつけられたような感触を持ちました。突きつけられ方の激しさと自分の情念の激しさとによって、私は少なからず衝撃を受けてしまったのです。それとほぼ同時に、「愛」や「平和」や「自由」が大好きな日本のミュージシャンたちに、この精神レベルの音楽はまず作れないだろう、という思いも湧いてきました。

 それにしても、日本人の作った曲ではなくて、台湾の、大東亜戦争を闘った経験のない若者たちの作った曲が、特攻隊という極めてナショナルなモチーフをめぐって、なにゆえかくも私の心をゆさぶるのでしょうか。考えてみれば、奇妙なことではあります。

単なる日本びいきではない『玉砕』の歌詞

 不思議なのは、それだけではありません。歌詞のなかに、「日の丸に捧げたこの命」という文言があります。ヴォーカルのフレディ・リムは、エネルギッシュでどこか悲痛なデス・ヴォイスで、その言葉をまっすぐに心をこめて熱く発しています。少なくとも皮肉めいたところは微塵もありません。台湾人の若者である彼に、なにゆえそのことが可能なのか。

 さらには、自分の激しい情念を、私はなにゆえ自分に対してひた隠しにしてこなければならなかったのでしょうか。それも奇妙なことです。

 そんなわけで、この曲から衝撃を受けたことをきっかけに、私は、いろいろと考えることを余儀なくされたのです。以下は、その結果報告です。あるいは、経過報告です。

私たちが戦前、戦中の日本を受け入れられない理由

 まずは、三つ目の疑問について。″私はなにゆえ自分に対してひた隠しにしてこなければならなかったのか″についてあれこれと思いをめぐらしているうちに、私は、特攻隊をめぐる内なる密やかな自己検閲の所在に気づくことになりました。つまり私は、特攻隊をめぐる自分の感受性の激しさや深さにわれ知らず上限や下限を設定していたようなのです。その事実は意外でした。というのは、百田尚樹氏の『永遠の0』をめぐって自分なりに考えを深めることで、特攻隊問題に関するいわれのないタブーを思想としても感情的にも自分なりに乗り越えた気でいたからです。

 その自己検閲の問題は、『永遠の0』において特攻隊の物語が、祖父から孫へどのように手渡されたのかという問題と関わってきます。その手渡しは、″宮部久蔵は出来うるかぎり戦闘を避けようとした″という、私たちの内なる戦後モードの許容可能な人物設定を通じてなされます。人命尊重を至上の価値とする戦後モードを通じて、深い謎だった特攻隊という存在が、戦後に生きる私たちに受け入れ可能なものとなっているのですね。

 敗戦直後からの五年間、日本がGHQの設定した戦前否定を是とする思想統制下にあったことと、その後の日本がいまに至るまでアメリカの実質的な属国であり続けていることと、憲法九条を頂き続けていることが、そのような思想統制の内在化=自己検閲のビルト・インをもたらすことになった。またそのことが、特攻隊を受け入れる私たち日本人の作法にも濃い影を落としている。どうやら、そういうことが言えそうな気がするのです。

 『永遠の0』には、戦後に生きる私たちが特攻隊を受け入れるうえで一定の心理的手続きを踏むことの不可避性と限界との両方が集約されているものと思われます。

 一方、ソニックの「玉砕」は、そういう手続きをあっさりとスルーしています(といっても、別に作品の優劣を論じているわけではありません)。ソニックのメンバーたちは、戦争体験がないにもかかわらず、身体性において、どうやら戦前・戦中とじかにつながったところで、特攻隊を受け入れているようなのです。彼らには、GHQ占領体験も、憲法九条を頂いた経験もないのですから、考えてみれば、それはごく自然なことといえるでしょう。つまり、彼らには、特攻隊をめぐる自己検閲がビルト・インされる歴史的契機がなかった。まずは、そう言えるのではないかと思われます。

→ 次ページ「台湾でも日本に好意的な教育はなかったが、台湾の若者が日本に好意的になれた理由」を読む

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西部邁

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