国の借金

雪の銀山温泉

2013年8月9日 財務省は「国の借金」が1000兆円を超えたことを発表した。多くのメディアが一人当たり800万円を超える借金を抱えている事態に警鐘を鳴らしたことは記憶に新しい。しかし、そこで問題となるのは、なぜこれほどまで借金が溜まってしまったかということである。デフレが原因であろうか。生活保護の受給者が増えたことであろうか。それとも、在日特権と呼ばれる在日外国人に厚遇する政治システムが原因なのであろうか。

 実際に検証してみると、日本がデフレに陥ったのは1991年であるが、その年の国の借金は300兆円である。現在の3分の1以下であるため、少なく抑えられているような印象を受けるだろうが、莫大な金額である。生活保護支給額の総額も最大を記録した2013年でさえ、国費ベースで3兆円に満たない。在日特権も詳しく調べれば、大金が動いていることは確実だ。もちろん改善するべきではあるのだが、これも国の借金が1000兆円を超す最たる理由にはなりえないだろう。

 それでは、現在のように日本だけではなく、アメリカをはじめ世界中が国の借金で苦しんでいる理由の根源は何だろうか。江戸時代の儒学者、荻生徂徠は「政談」の中でその理由を的確に述べている。要約すれば以下の通りである。

 平和が長く続けば、社会の上下が困窮してしまうことで秩序がなくなり、やがて戦乱が起こる。そのような社会の困窮を防ぐためには上下万民をみな土地に着けて生活させることで礼法の制度を立てなくてはならない。人間は華美を好むので、制度によって贅沢を禁じなくては、数の多い卑しい人間が、少ない良質なものを使用して必要な物が不足させてしまうため値段が高くなり質も下がる。このようにして衣食で足りないものが出れば、礼儀をたしなむ心は乏しくなり悪事が横行し、国を治めることが出来なくなってしまう。なぜなら人は「貧すれば鈍する」存在だからである。

 非常に簡略化したが、ここから予想できることは、各国政府が困窮に苦しんでいる最大の理由は私たちの華美過ぎる生活にあるのではないかということである。考えてみれば当然の話ではなかろうか。例えば、私たちが車に乗ろうと思えば道路が必要なうえ、国民の命を守るため免許制度をつくり管理しなくてはならない。国民がさらに便利さを求めればトンネルを掘り、高速道路まで作らなくてはならない。その費用を負担するのは政府であり国である。つまり、文明が発展すること、それ自体に国の借金を増加させる原因が内包されているのだ。しかし、そうなると「イノベーションを起こし、景気を良くさせることで借金を返す」という定番のフレーズは全くのでたらめであることが予想できる。イノベーションが起きれば、その革新そのものが更なる借金を抱える問題となる可能性を秘めているのだ。

ここまであえて触れなかったが、そもそもとして「国の借金」という言葉はおかしい。国の借金は国民の所得になるうえ、作られたものはインフラ等、国民の必要なものである。適切な用語に換言するならば、「国民を統治するために国が使ったお金」とでも言えば良いだろうか。実際には、その借金の総額ではなく、金利や国債の自国民保有率が重要なのである。しかし、私は「だったら大丈夫」と安心するべきとは思わない。それどころか、むしろ国が借金をしなければ私たちの生活は維持できないという自覚をもたなくてはならないと思う。現代において車やパソコン、携帯電話は贅沢品というよりは必需品であり、衣食にも並ぶ存在になりつつある。しかし、そのような華美な世の中では、先の自覚をもち礼法を立てなければ、自らが享受している豊かさの矛盾に気づかないほど、人は瀕して鈍してしまうだろう。

西部邁

大貫直哉

大貫直哉学生

投稿者プロフィール

東京都出身 1991年生まれ
現滋賀大学院経済学研究科一回生 専攻は経済思想 大学時代の専攻は貿易実務。

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