『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』( 著 マリー=フランス イルゴイエンヌ)を読んで

学校の廊下

久しぶりのブックレビュー、フランス人のマリー=フランス イルゴイエンヌさんの書いた『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』という本を少しだけ読んだのですが、内容的にフランスやヨーロッパ諸国よりもむしろ日本で多く読まれてほしいなぁと思うような内容だったので、内容紹介も兼ねて少し感想を書いてみたいと思います。筆者の前著『モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない』の続編で、『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』では、<家庭におけるモラル・ハラスメント>と<職場におけるモラル・ハラスメント>の二つの問題を取り扱っているのですが、続編の『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』では、<職場におけるモラル・ハラスメント>を主題にしています。

 一言で言えば、職場での陰湿ないじめと言って良いと思います。日本でも、解雇規制が厳しいために、辞めさせたい社員を簡単に解雇できないために、陰湿ないじめを行い、自分から退職を願い出るように仕向けるというような事がわりと頻繁に行われていると聞きますが、この本ではヨーロッパにおけるそのような事例がふんだんに紹介されています。高学歴の新人に嫉妬して、「お前は良い学校を出たのに何も知らないんだな」といびる上司、難しい仕事をこなして会社の内外から評価された副社長を孤立させる社長、新人時代に受けたいじめを自分より下の新人が入ってきた時に、同じように繰り返す社員・・・読んでると気分が悪くなるような事例が数多く紹介されていますが、「ああ、こういうことってあるんだろうなぁ・・・」と妙にしっくりくるようなエピソードが多いです。「日本人は陰湿ないじめを行う」とよく言われますが、読み進めていくと、やはり海外でも似たようなことをする人間はいるものなのだなぁとしみじみ(?)思います。

 フランスや、ヨーロッパの一部の国では『モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない』が大変売れた影響もあってか、次第に労働法や刑法の中にモラル・ハラスメントを禁止する法律が盛り込まれてきているそうです。

 いじめ大国と言って良いほどにいじめの横行している日本でも、是非ともこの問題は話題になり、できればそれを禁止する法律も制定されて欲しいと思います。以前から、学校におけるいじめ問題はショッキングな自殺事件にまで発展しやすいこともあり、大変問題視され、様々な議論もなされていますが、私が思うには会社でのいじめの方がより深刻なのではないでしょうか?なんだかんだ言っても、学校は多少休んでもそれほど問題にはなりませんし、場合によっては転校するという手段もあります。しかし、日本では終身雇用システムの名残があり、「一度、就職した会社はそう簡単に辞めるものではない」という規範意識も未だ強いのではないでしょうか。しかも、企業としても人事の問題等、様々な理由から中途半端なキャリアの人間を中途採用したくないという傾向があるため、未だ、会社を途中で辞めてしまった人間は再就職がしにくい状況にあると思います。つまり、日本の企業文化では、あえて非常にネガティブな言い方をするなら、まだまだ企業そのものが逃げることの出来ない牢獄のようなものであり、そこで発生するいじめは度が過ぎれば、想像を絶する苦痛を労働者にもたらすでしょう。このような苦痛は従業員のやる気を著しく低下されるため、回りまわって、その悪影響はブーメランのように企業に返ってくるのではないでしょうか(ちなみに、このような因果関係によりモラル・ハラスメントが人間にも企業にも悪影響を及ぼすというのがこの本の主題となっています)。

 さらに、現在一部の識者のあいだでは、労働者の待遇の向上や、各種の規制緩和で不安定化した雇用形態の見直しの議論もありますが、このようなモラル・ハラスメントが横行するような社会にあっては、労働者の保護の目的で解雇規制を強化しても、それが結果として陰湿ないじめや嫌がらせを生み、結果として労働者を苦しめるという本末転倒な結果にならないとも限りません。

 以上のような理由から、日本でもいち早く、企業内のいじめや、モラル・ハラスメントという問題が真剣に議論されるようになってほしいと思います。

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西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

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