日本のTPP協定交渉第2ラウンドが始まった

TPP

 TPP協定交渉参加国の交渉担当者たちは、ぎりぎりまで年内妥結という目標を掲げ続けながら、12月10日のシンガポール閣僚会合終了後の声明では、ついに妥結どころか大筋の合意すら見送りました。今年7月25日にマレーシアの会合の終盤から日本がTPP協定交渉に正式に参加して以来、日本のステークホルダーが参加できる最初で最後の8月のブルネイ会合があり、10月のバリでのTPP首脳会合での大筋合意に失敗し、今回の妥結の見送りを受けて、TPP協定交渉は更なる長期化が見込まれることとなりました。

 12月13日に行われた自民党のTPP対策委員会で、大江博首席交渉官代理は2月に首相と大統領がわざわざ共同声明を出してまで認め合ったセンシティビティについて「お互いにセンシティビティがあることは理解していたが、米国の理解の幅と我が国が望む理解の幅に違いがある」と説明しました。TPP交渉の行方を見守ってきた私としては、何を今さらと驚きはしましたが、同時に湧いてきたのは「とうとう始まったんだ」という思いでした。

一方的に阿吽の呼吸を望んだ日本政府

 政府は国民との信頼関係を構築し、オールジャパンでTPP協定交渉に取り組みたいと、節目ごとに業界団体等に向けた説明会を開催してきました。正式参加を目前に控えた6月に行われた第一回の説明会は、当初プレスリリースを出さず、参加して意見を提出できるのは政府が選んだ団体のみという体制でしたが、各方面から批判の声が上がり、直前になってプレスリリースを出し、意見提出も一応誰でも提出できるようになり、それを交渉官が目を通すという手順が踏まれることとなりました。実際に行われた説明会では、反対の声は要らない、必要なのは国益を守り攻めるための知恵がほしいという姿勢に、知恵もないのに参加に踏み切ったのかと、参加者から大いにひんしゅくを買いました。

 その後、説明会などで交渉団の広報担当官は日本には阿吽の呼吸というものがある、なんとか情報開示を行っていく、と何度も繰り返しましたが、ニュートラルに、第三者的に聞けば日本政府は日本の農業を守ろうという意思を伝えているのだな、ということが良く分かるような発言ですら、まったく生産者や自民党議員の心に届いていない状態が続いていたように思います。

 かくいう私自身も、日米並行協議を含む日本の非関税障壁に関しては、TPP協定で日本の国内法を変えられるなどもってのほかで、いくら「TPP協定においては皆様が心配されるようなことにはなっていません」と言われても、「TPPでなければ並行協議で新自由主義者たちが喜ぶような政策になっているのでは」と現在でもまだ完全に信頼できる段階には至っていません。そのような状態でいくら阿吽の呼吸を求められても、機能するはずがありませんでした。

 12月2日に都内で行われた業界団体等に向けた日本政府説明会の後、政府交渉関係者との立ち話の際、なぜそこまで貿易交渉において日本の国内法が変更されることを嫌がるのかが知りたいと尋ねられました。貿易交渉で必ずしも悪いほうに変わるとは限らないし、日本にとってよい法律に変わるかもしれないとは思わないのかと言うのです。日本にとって良い方向に変わるかもしれない、それは完全に否定はしないけれど、法律をどのようにするのかを話し合って決めるのは、官僚の仕事ではなく、国民から選ばれた国会議員の仕事だし、その国会議員が内容も知らないなんておかしい、などとごく当たり前の返答しかその時は返せませんでした。そしてその関係者の言い分が、最終的に国会で批准するのだから、決めるのは国会議員だ、というこれまた当たり前のものだったので、これは平行線だな~と、その時は思いました。

 その後しばらく、なぜ私はこんなにも不安に思うのだろうと自問自答を続けていましたが、今回の大江首席交渉官代理の発言を受けて、一つ分かったことがあります。本来なら「やっぱり嘘だったんだ、きーっ!」となるべきなのでしょうが、実際はそうはならずにやっと政府も私たちときちんと向き合う気になったのかもしれないと、意外にもほんの少しではありますが不安は軽減されたのです。これは一体、何としたことでしょう。

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西部邁

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