テロとグローバリズムと金融資本主義(その1)

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 11月13日に起きたパリ同時多発テロに関するマスコミの論調は、どれも痒い所に手が届かない印象があります。なぜこうした事件が世界で頻発するのかという問いかけはしきりになされているのですが、それに対する答えが、ISの過激な戦闘性とその巧みな情報・勧誘戦術、パリなどヨーロッパにおける大都市でのムスリムに対する差別、イラク戦争や「アラブの春」以降中東・北アフリカに引き起こされた混乱、空爆に対するテロリストグループの報復、ヨーロッパ各国に常住するようになった移民二世、三世の若者たちのISとの往復活動など、いずれも現象面の説明にとどまっていて、根本的な原因の指摘になっていません。

 ここ近年の、中東・北アフリカ・ヨーロッパ地域を中心としたテロや紛争の頻発、拡散は、世界史の大きな転換を象徴しています。何が変わりつつあるのか、またそれはなぜなのか、対岸の火事とは言えない私たち日本人にとっても、これはきちんと考えておくべき重要な課題です。

 もちろん、これらの地域が第一次大戦勃発の昔から、ヨーロッパの火薬庫であったという特殊性を見逃すことはできません。それは第一に、地政学的な近接地域間の緊張関係でした。またヨーロッパも含めたこれらの地域は、宗教上の近親憎悪を繰り返してきた歴史を背負っています。さらにこれらの地域は、互いに境を接しながらも、世界に先駆けて豊かな近代化を成し遂げた地域と、対照的に近代化に大きく立ち遅れた地域とに分断されているといった事情もあります。この事情が前者をして後者を帝国主義的侵略と植民地化の恰好の標的にさせてきたわけです。これらの関係史を共有しない日本では、今でもヨーロッパ(ロシアを含む)に比べて、「火薬庫」の直接的な影響が相対的に弱いものであることは否めないでしょう。

 しかし、今やこの「火薬庫」の力が、かつてにも増して地球の隅々にまで広がりつつあることは明瞭です。そればかりではなく、その「火薬庫」それ自体のもつ意味がかつてとは変質しつつあります。それは単に、地球が狭くなったために、人の集まる賑わい豊かな都市ではどこでもテロが起こりうるようになったといった変化を表しているのではありません。ではそれはどんな質的な変化であり、いったいなぜそのような変化が認められるのでしょうか。

「火薬庫」は今では、現実の火薬の爆発や殺傷の危険を秘めた場所だけを意味するのではなく、一つの象徴的な意味、日々の生活において私たちの大切にしているものをじわじわと破壊してゆく見えない動きという意味を担うようになったのです。それはむしろ「携帯の化学兵器」あるいは「遍在する地雷」とでも呼ぶべきかもしれません。その心は、私たちの生産、消費、物流、情報交換などの生活活動そのものの中に常に、爆発の要因が深く埋め込まれるようになったということです。

 なるほど一部の過激集団のテロ行為が世界各地で頻発するようになれば、そこに誰もが注意を集中し、人々の安全を守るためにそのつど厳戒態勢を敷いてテロの危険を防止しなければなりませんし、またその過激集団と闘うために有効な軍事的対応を行うこともぜひ必要でしょう。もちろん日本もその例外ではありません。

 ちなみに、報復の連鎖を避けるためにテロリストとの対話を、などと、安全な場所にいてノーテンキなことを言っている日本人がこの期に及んで相変わらずいるようですが、国際情勢に対する無知、歴史的な現実に対する無知、いえ、人間一般に対する無知も甚だしい。そういうことをのたまう人は、口先だけでなく、まず自分が率先してISなどとの接触行動に踏み出すべきです。何とかは死ななきゃ治らないとはまさにこのことです。

 それはともかく、突発的でショッキングな事態だけに目を奪われていると、それに対する情緒的な動揺に意識を支配されて、じつはそれらの現象が、日常的に埋め込まれて私たちの生活をむしばむ「携帯化学兵器」と共通の原因に根差すものだということが見えなくなります。ただテロの脅威から身を守ったり、現下の一部勢力に積極的な武力攻勢をかけるだけでは、この共通の原因をなくすことはできないのです。

 その共通の原因「携帯化学兵器」とは何か。言うまでもなくグローバリズムであり極度に肥大してしまった金融資本主義であり、それをイデオロギー的に支える新自由主義です。

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西部邁

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