グローバル化の本質
- 2013/12/19
- 社会
- グローバル化, ニヒリズム, 経済学
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前回の記事(『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』(著 マリー=フランス イルゴイエンヌ 訳 高野 優)を読んで)で紹介した本『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』で、現在の世界のグローバル化という現象に関して非常に面白く興味深い記述があったので、紹介してみたいと思います。
グローバル化が進むこの時代、企業はどこからどこまでそっくりなクローン社員、あるいは取り替え可能な知的ロボット社員を求めているのである。自分たちの属するグループを均質化するために、人々は性格であれ、性別であれ、人種であれ、異質なものを排除して、打ち砕いていく。そういった性向は企業も変わらない。だいたい、同じ型の社員であれば管理もしやすい。そうして社員が企業の思うとおりに動けば、生産性が高まり、収益があがると考えるのである。(P54)
このグローバル化が進むにつれて、個人がどんどん定型的になり均質化してくるという現象は、まさに中野剛志さんが『官僚の反逆』で指摘した通りですが、ほかにも、かつての共同体的な労働形態が崩れ、会社員の世界でも個人主義が当たり前なってきているという指摘や、新しい経営管理の手法では個人を分断しバラバラにマネジメントするという指摘があり、グローバル化が進んでいく中でフランスも日本と非常に似た現象あるいは問題が発生していることがうかがえます。
それでは一体、なぜグローバル化は、人間の均質化を招き、共同的な組織を崩壊させ、個人主義を招き人間をバラバラな個人に分断するのでしょうか?
その理由は、一つにはやはりグローバル化という現象の中で、世界中どの国でも通用する言語、あるいは価値基準というものが必要になることが挙げられるでしょう。戦前のブロック経済の後、戦後のグローバル化(当時はインターナショナル化)は、共産主義による労働者間のイデオロギーの共有から始まりました。もっともこのイデオロギーも各国の様々な風土や土着的な宗教性や思想性というものを極力排除した唯物論的なイデオロギーでした。
その後、ある時点で、労働者によるインターナショナル化という現象から、企業人によるグローバライゼーションへの移行という現象が起きました。この現象以降、共産主義革命という理念以上により 普遍的 かつ客観的な価値観、言語が世界の共通言語となりました。それは一つには金銭至上主義的な価値観であり、そしてもう一つがマネーというこの上なく定量的かつ価値中立的な記号です。
つまり、グローバルなコミュニケーションを、各国特有の思想風土や価値観に阻害されないためには、これらの価値観を全く排除した客観的で、定量的で、価値中立的なマネーという記号を世界共通の言語とする必要があったのです。
ジャーナリストの東谷暁さんは、様々な著書で、どれだけ経済学者が世の中をおかしくしていったのかということについて解説していますが、そもそもなぜ経済学という現実の社会に当てはめるのはあまりにも欠陥の多い学問が、こうも現実の社会や政治に対して多大な影響力を及ぼしたのかといえば、経済学の持つ客観性、各国や各地域の特殊性を極端に排除し、完全に合理的な個人、それもただひたすらに金銭的な便益を追求するという一点において完全に合理的な個人というものを想定した経済学という学問が、現実の世界がそこに移行しつつあった金銭至上主義的な価値観や、マネーのみを唯一意味ある世界共通の言語と可そうとするグローバル化した世界の価値観と非常に親和的だったからでしょう。
このグローバル化という現象が世界の経済に様々な悪影響を及ぼしているということについては、三橋貴明さんや、柴山桂太さん、中野剛志さん等が散々に指摘していることではありますが、また同時に世界のグローバル化は人々の心理的な側面や社会的な側面に関しても、非常に深刻な悪影響をもたらしつつあります。
それは、社会や国家の持つ、固有の文化や精神風土を極端に軽視し、社会の共同体を崩壊させ、人々をバラバラな個人の群れと化すことに繋がります。同時に、藤井聡さんが指摘するように、価値という要素を完全に排除した金銭を唯一の価値とする価値体系は、人々の人生から急速に意味や価値を奪い一直線にニヒリズムへと誘います。
これらの現象は、かの三島由紀夫が徹底的に憎んだ近代民主主義のもたらした現象と非常に似た側面がありますが、そういった意味ではグローバル化は、(柴山桂太さんが指摘するように、世界はグローバル化と国民経済化の現象を往復しつつ循環しているという現象を抜きにして考えるならば)ある意味で、近代や近代民主主義のもたらした、ある意味における必然の現象であり、また同時にそれを完成化させるものなのではないでしょうか。
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