フラッシュバック 90s【Report.14】ゴールドフィンガーで始まったサプライズ商法

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今の20代後半から、30代ぐらいの人々は、「郷ひろみ」といって思い出すのは、「ゴールドフィンガー99」の振り付けではないしょうか。

それより上の世代になると、元妻である二谷友里恵との結婚生活を暴露した「ダディ」の作者で、今で言う「お騒がせタレント」のイメージもあるかもしれません。

しかし、90年代後半において彼の功績として、最も取り上げるべきは、「ゴールドフィンガー99」のプロモーションで行ったゲリラライブです。

ストリートの現象をメディアが取り上げる

事の顛末は、「ゴールドフィンガー99」のプロモーションのため、渋谷駅前交差点にトラックを止めて、ゲリラライブを行ったことです。

名前ばかりのゲリラライブではなく、警察への道路使用許可も取っておらず、事後には、プロモーションの責任者は懲役3ヶ月、執行猶予2年の有罪判決を受けています。

しかし、その犠牲を払ったおかげか、郷のこの曲は久々のヒットとなり、時代を代表する曲となりました。

低予算でできたストリートプロモーション

このプロモーションの考え方は、最近よく用いられている、PRと宣伝をあわせた戦略のさきがけといえるかもしれません。

テレビメディアの宣伝で一番わかりやすいのは、放送局の広告枠を買って、CMなどを仕掛けることです。あるいは、事務所のタレントを重用する番組を作って、出演させることや歌番組にブッキングすることもありでしょう。

しかし、いずれにしても、高額な資本が必要な動きであり、業界の力学の中で動かなければならない話です。

一方で、PR戦略を前提とした場合の宣伝は少し違います。宣伝したいイベントを社会や世間のニュースと結びつけて、1つの事件にしてしまうことによって、わざわざ売り込まなくても、メディアがあの手この手で取り上げてくれることを仕掛けるわけです。

例えば、近年、盛り上がりを見せているAKBグループの総選挙などは、音楽業界の枠を超えて、ニュース以外の多様なメディアで取り上げられています。これも、ニュース性をもたせたイベントによって、自発的にメディアが取り上げることを狙いとしています。

デフレがもたらした消費停滞

こういった、「宣伝にカネをかけない方法」が用いられるようになった背景には、間違いなく、デフレの影響があります。

少し、経営的な考え方をしますが、経費には、変動費と固定費があります。変動費は、売上が落ちれば、減っていく経費ですが、固定費は売上と関係なくかかってしまう費用なわけです。

デフレになってしまうと、モノの値段が相対的に下がっていきますので、売上は減っていきます。一方で、豊かになった日本においては、固定費、特に人件費を削減することは難しいわけです。

そこで、人件費を変動費に近い扱いにしようと思ったら、雇用の流動化、パート屋派遣社員の増加や転職市場の活性化なども起こっていきます。また、平均賃金が停滞することにより、人々がお金を使わない、つまり、消費が停滞していくわけです。

しかし、マスメディアやその広告を取り扱う代理店にとっては消費が喚起されることがなければ、商売になりません。かといって、これまでのように、上限いっぱいまで予算を使い切る広告を打つこともできません。

そこで、現れたのが、サプライズ商法だったわけです。

→ 次ページ「サプライズを流行語にした小泉首相」を読む

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西部邁

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