「人口減少説」はトンデモ説の典型 ー 失われた20年の正体(その5)

水田

こんにちは、島倉原です。
今回は、失われた20年の原因を巡る諸説のうち、⑥人口減少説、を取り上げたいと思います。
この説については、理論・実証の両面から既に多くの批判が加えられていますが、未だにマスメディアなどで、日本経済停滞の原因の1つとして決まり文句のように言及されることもあるので、その背景なども考察しながら、今一度検証してみたいと思います。

人口減少がデフレの正体?

人口減少説をポピュラーにしたのは、50万部を超えるベストセラーになった(Wikipediaの記述による)、藻谷浩介著「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」(角川oneテーマ21、2010年)でしょう。

当時日本政策投資銀行の参事役(現在は日本総合研究所調査部主席研究員)だった藻谷氏は、「『生産年齢人口減少に伴う就業者数の減少』こそ、『平成不況』とそれに続いた『実感なき景気回復』の正体です。」(同書134ページ)という主張を、都道府県別の人口・個人所得・小売売上高など、様々な統計データを交えながら以下のように展開します。

「内需拡大、すなわちモノが売れるためには個人所得が増える必要があり、そのためには個人所得を稼ぐ就業者数が増えなければならない。」
「ところが日本では、人数が多い終戦前後生まれ世代の高齢化により、高齢者の急増と同時に生産年齢人口(15~64歳の人口)、すなわち就業者数の減少をもたらしている。」
「給与所得以外の『企業収益からの所得移転のチャンネル』は配当などの金融所得だが、その大半を得ているのは高齢者であり、彼らには特に買いたいモノ、買わなければならないモノがない。逆に長生きに備えた『金融資産を保全しておかなければならない』というウォンツだけは甚大にあるため、所得が消費に回らない。」
「『人口の波』の影響は、景気の波を簡単に打ち消してしまう威力があり、いわゆる景気対策(生産性向上、公共事業、インフレ誘導etc.)は何ら実効性を持たない。」
「真の解決策は、①高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進、②女性就労の促進と女性経営者の増加、③訪日外国人観光客・短期定住客の増加、による内需の拡大である。」

「生産年齢人口減少=デフレの原因」の非論理性

生産年齢人口・名目GDP・GDPデフレーターがほぼ同時期にピークアウトしたのは事実ですし(生産年齢人口のピークは1995年、それ以外は1997年)、「人口減少⇒買い手(需要)の減少」というのも、一見すると単純明快でわかりやすい論理です。また、同書が人気を博した背景には、「日本全国、ほとんどの都市を旅行したことがある」と自称する藻谷氏が同書の中で打ち出した「『人口の波』という実態を知らずに、教科書通りの景気対策で解決しようとするのは、無意味な机上の空論」という姿勢が、実際に長期停滞が続く経済環境の中で、多くの読者にとって小気味良く映ったこともありそうです。

しかしながら、

「生産年齢人口=生産も消費も行う人々の数」
「非生産年齢人口(子供または高齢者)=生産は行わず、消費だけする人々の数」

と考えると、「生産年齢人口が減り、高齢者が急増⇒需要減少によるデフレ」という論理は明らかに不自然です。
なぜならそうした状況では、「生産年齢人口の減少による消費(需要)のマイナス以上に、生産(供給)のマイナスの方が大きい(消費のマイナスの一部は、高齢者人口の増加によって相殺される)」ため、どちらかと言えばインフレ圧力が働くと考えられるからです。

図1はその裏付けとして、日本の総人口に占める生産年齢人口の比率と、家計消費性向(可処分所得のうち何パーセントを消費に回したか)の長期推移を示したものです。両者の動きはピッタリ同じではないものの、大きなトレンドとして、生産年齢人口比率が低下する局面では家計消費性向が上昇していることがわかります。

デフレと人口の関係という意味では、むしろ前者が後者(出生率低下)の原因になりうるのであってその逆ではない、というのが歴史的な法則のようです。
経済 / 米国の出生率が統計史上最低に―景気を反映 / WSJ日本版 – jp.WSJ.com

【図1:生産年齢人口比率と家計消費性向の長期推移(1955~2011年)】

生産年齢人口比率と家計消費性向の長期推移

また、物価の影響を除いた実質経済成長(実質GDP)と人口の長期的な関係を見てみましょう。総務省の統計によると、1920~2010年にかけて、日本の総人口は2.29倍、生産年齢人口は2.51倍に拡大しましたが、「経済統計で見る世界経済2000年史」(柏書房、2004年)を著したアンガス・マディソン氏のホームページによると、この間日本の1人当たり実質GDPは12.94倍(つまり、実質GDP自体は29.60倍)になっています。

つまり、経済成長に与える人口要因のインパクトは、8%前後に過ぎない(残り92%は、生産設備、生産技術等、他の要因によるもの)という訳です。

→ 次ページ:「藻谷説こそ実証的根拠に乏しい「机上の空論」」を読む

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西部邁

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コメント

    • iito
    • 2015年 2月 23日

    ハンガリー、ドイツ、ロシアともに旧東側(ドイツについては半分だけですが)ですね。
    経済の路線が大きく変わった国と日本を比べるのは不適切ではないでしょうか。

    • ふさいち
    • 2016年 2月 01日

    私もiitoさんのコメントを読む前に、同じように思いました。
    なぜ、近年になって、経済システムが大きく変化した国を選んだのですか?
    より近い、経済システムや産業構造の国がいくらでもあると思うのですが。

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