解雇しやすい特区と日本企業の強みについて

消費税問題の影に隠れあまり議論されていませんが、政府は現在大変問題のある政策の実行をいくつも検討しているようです。

「解雇しやすい特区」検討 秋の臨時国会に法案提出へ

【山本知弘、清井聡】労働時間を規制せず、残業代をゼロにすることも認める。秋の臨時国会に出す国家戦略特区関連法案に盛り込む。働かせ方の自由度を広げてベンチャーの起業や海外企業の進出を促す狙いだが、実現すれば働き手を守る仕組みは大きく後退する。

 特区は安倍政権がすすめる成長戦略の柱の一つ。20日の産業競争力会議の課題別会合で、安倍晋三首相は「国家戦略特区は規制改革の突破口だ。実現する方向で検討してほしい」と発言。田村憲久・厚生労働相に検討を指示した。
出典:朝日新聞社 朝日新聞デジタル 9月20日(金)21時29分配信

私は、安倍首相の重大な問題点の一つに、様々な演説などで「瑞穂の国の資本主義」「日本の美しい田園風景を守る」といった素晴らしい理念や美しい言葉を並べ立てるものの、具体的にその理念を如何に実現するか?という具体的な問題になった時に、まったくもってその理念と整合性のない、あるいはそれに真っ向から衝突するような政策を実行することが大変多いということがあると思っています。今回のこの解雇しやすい特区の設置という案もその問題の典型的な例でしょう。

安倍首相は、「瑞穂の国の資本主義」という文脈の中で同時に、日本の伝統文化を慣習を大事にし、勤労倫理が報われる社会にすると言っています。このような文脈のなかで、この解雇しやすい特区という案はどのような意味を持つでしょうか?

投資家の短期的利益のための規制緩和

おそらくこの特区の名称から察するに、労働規制の緩和、特に解雇する際の規制を緩和する特区を作るということでしょう。さらに、記事によると労働時間を規制せず、残業代をゼロにすることも認める。とあります。

ところで、この経済特区の実現は聞いたところによるとアメリカからの強い要請があったと言われています。このような特区に外資の参入を許せば、おそらく海外の投資家は次のような行動に出るのではないでしょうか。まず、海外の投資家は日本企業のうち業績が低迷し比較的割安で買収できる企業を探して乗っ取りを行います。そして、この特区の精度を利用し「経営体質の改善」などといった名目を並べ立て大規模なリストラを断行します。大規模なリストラを行うと少なくとも短期的には業績の改善に結びつくという理由から、短期的な利益の獲得を狙う海外の投資家は大規模なリストラを行った企業の株を買いたがるため、そのような大規模なリストラを行うと株価が上昇します。そして、株価が上昇した時点で株を売りに出すことで最初に割安で企業買収を行った投資家は短期間で莫大な利益を手にすることになるのです。

はっきり言って、私からするとこのような行動が可能になるという一点のみを考慮してもこのような特区の設置には断固反対します。一部の海外の投資家があぶく銭を手にするために日本の労働者の仕事や生活がメチャクチャにされて良いはずがありません。

→ 次ページ:「雇用の規制緩和は、日本の伝統文化や慣習をも破壊」を読む

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西部邁

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コメント

  1. アベノミクス第三の矢とは、構造改革・規制緩和などなど特定の業者のレントシーカーを儲けさせるだけの代物だと愚考します。

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