「人口減少説」はトンデモ説の典型 ー 失われた20年の正体(その5)
- 2013/12/18
- 経済
- 少子化, 藻谷浩介
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藻谷説こそ実証的根拠に乏しい「机上の空論」
日本において、生産年齢人口・名目GDP・GDPデフレーターがほぼ同時期にピークアウトしたことは前述の通りです。しかしながら、トレンドが同じ(相関関係が高い)だからといって、因果関係があるとは限らないのは言うまでもありません。
現に図2で見る通り、日本以外の生産年齢人口減少国では、名目GDPやGDPデフレーターは(グラフ目盛を分けねばならないほど)上昇しています。
むしろ名目GDPと同じような動きをしているのは名目公的支出(または名目政府支出)であることは、「その1:積極財政論の出発点」でもお示しした通りです。
【図2:生産年齢減少国におけるマクロ指標の推移】
言うまでもなく、「デフレの正体」ではこうした検証は全くなされていません。
それどころか、縦軸に小売販売額の増減率、横軸に個人所得の増減率をとって各県をプロットしたグラフを示している箇所では、90~96年で首都圏よりも地方(青森、秋田、岩手、鳥取など)のパフォーマンスが良いことについて、
「これは当時の公共投資も相当効いているのでしょうが、それだけでここまで行くということはありえません。」
と何の根拠も示さずわざわざ断定しています。
事実は図3の通り、経済単位としての独立性が高い「国別」ほどきれいな関係ではありませんが、「名目公的支出(公共投資以外の政府支出も含む)の伸びが高い都道府県ほど、名目経済成長率が高い」という関係が見て取れます(1個左に飛び出ているのは長崎県で、想像の域を出ませんが、同時期のハウステンボス開業のインパクトが存外あったのかもしれません)。
【図3:名目公的支出伸び率と名目GDP成長率の関係(都道府県別、1990⇒1996年)】
しかも、同書の中で示されているグラフによって同時期の就業者数を比べてみると、明らかに首都圏の方が青森よりも伸びが大きくなっています。つまり、「就業者数増加⇒個人所得増加⇒内需拡大」という図式自体が、同書において既に破たんしているのです。
このあたりの論理展開に、日本政策投資銀行を所管する財務省のスポークスマンとしての匂いをかぎ取るかどうかは、各人のご想像にお任せします。
さらに、藻谷氏が提唱する解決策のうち、「高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進」の具体策である「高齢者の退職で人件費が浮いた分、若い人の給与を引き上げる」についても、「その2:失われた20年のもたらしたもの」で示した通り、成長期待を失って企業が先行投資意欲を失っている状況でその実現を期待するのは、きれいごと、あるいは机上の空論以外の何物でもないでしょう。
コメント
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ハンガリー、ドイツ、ロシアともに旧東側(ドイツについては半分だけですが)ですね。
経済の路線が大きく変わった国と日本を比べるのは不適切ではないでしょうか。
私もiitoさんのコメントを読む前に、同じように思いました。
なぜ、近年になって、経済システムが大きく変化した国を選んだのですか?
より近い、経済システムや産業構造の国がいくらでもあると思うのですが。