思想遊戯(9)- パンドラ考(Ⅳ) 高木千里からの視点

第四項

 私と一葉との奇妙な友情は、高校時代を通して続き、なんと大学にまで持ち越してきてしまった。まったく驚きだ。
 一葉は、高校時代はモテなかったが、大学時代になってからはかなりモテていたようだ。いや、実際は高校時代もモテていたのかもしれない。私が知らないところで、告白とかよくされていたりしたのだろうか? 私でも何回か告白されたことがあるので、一葉にそういうことがまったくなかったとは考えにくい。ただ、私は高校時代に一葉に何かそういった恋愛関係の話があったとは聞いていない。
 大学というのは、高校までとはだいぶ違っていて、いろんな人たちがいる。一葉の外見は文句のつけようがない。だから、私がたまたま知った案件だけでも、相当にモテていた。といっても、男どもが一方的に言いよっているだけなわけだが。
 一葉は言い寄って来る男どもに対し、表面上は丁寧に対応していたが、何て言うか、まあ、撃退していったわけだ。つまり、一葉の会話についていけないのだ。男どもは。
 軽薄に美人に声をかける男どもではあったが、ほんの少しだけ同情もしてしまう。一葉は態度には出さないようにしていたとは思うが、会話をしていく中で、受け取り側が勝手に自身の矮小さを感じてしまうことも容易に想像できた。正直なところ、私も男だったら一葉と仲良くなれた自信はない。ここらへんは、難しいところだね。
 一葉は大学の噴水のところで本を読むことが多くなった。さすがに高校のときみたいに、講義中に本を読むことはなくなった。講義は、きちんと受けているみたいだ。まあ、講義中に本を読むくらいなら、休めばよいのが大学のいい加減で素敵なところだし。
 一葉が噴水で読書しているのは、やっぱりとても目立つ。だから、ときどきは悪い虫がやってくるのだが、一葉は丁寧に相手をし、丁寧に撃退していく。一葉に撃退しているつもりはないのだろうが、結果的にそうなってしまうということだ。私は一葉に何か言うべきか悩んだが、結局は何も言わないことにした。だって、何を言えばいいのだろう?
 私と一葉は、たまに食事をしたり、ときには講義で代筆をしあったり、旅行したりもした。私は大学で新しい友達もできたので、一葉とはたまに遊ぶ程度だったけれど。まあ、それは高校時代も同じだったけどね。
 一葉は一葉で、大学生活をそれなりに満喫しているようだ。私も詳しくは聞かなかったけれど、大学では講義を要領よくこなしていたし、図書館に入り浸ったりしていたようだ。休みの日にはどこか遠出もしているみたいだった。高校時代よりも、大学の方が格段に過ごしやすいというのは、ほとんどの人がそうだろうけど、一葉にとってもそうだったみたいだ。
千里「そういえば、高校の時、本を書きたいとか言ってたよね?」
 私は、ふと思い出したことを一葉に訊いてみた。
一葉「言ったね。書いているよ。」
千里「へぇ、どんなの書いているの?」
一葉「まだ、資料集めの段階だよ。」
千里「資料集め?」
一葉「そう。それなりのものを書こうと思ったら、やっぱり下準備は大切なのです。料理と一緒だね。」
千里「料理ねぇ…。そういえば、高校の家庭科の授業でも、手際よかったもんね。」
一葉「ちーちゃんも、上手だったと思うけど。」
千里「まあ、私はめんどうくさがりなところもあるしね。一葉みたいにはいかないよ。」
一葉「そんなことないよ。ちーちゃんは手際も良いし、私が男ならほっとかないのになぁ…。」
千里「私が男だったら、一葉はないなぁ…。」
一葉「ひどいよ。」
 そんな感じで、私と一葉の奇妙な友情は続いていた。
 長かったようで短かった大学生活の一年目が過ぎ去り、二年目に入った。私も私でいろいろとあったわけだけれど、それは割愛というか内緒ということで。
 新しく新入生が入ってきて、噴水で読書をしている一葉が少し話題になっているのを知った。まあ、予想通りではあるが。それは、噂になるよなぁ。
 予想通りなので、私は気にもせずに日々を送っていた。そうしていたら、ある日突然、一葉から相談を持ち掛けられた。
一葉「ねえ、ちーちゃん。新しくサークルを作るから、一緒に入ってよ。」
千里「……ちょっと、待て。」
 割愛した上に内緒とか言っておいてあれですが、私は大学一年目で、きちんとサークルに入っていたのです。そこでは気になる男性といろいろあった挙句に、元カノの登場とかてんやわんやで、結局気まずくなって付き合いにはいたらずという、ああ、そこはどうでもいい。
一葉「今のサークルは止めて、こっちの新しく作るサークルに入ってよ。」
千里「簡単に言ってくれるなぁ。そんな簡単にできることじゃないでしょう。」
一葉「じゃあ、掛け持ちでもいいから。」
千里「何なのよ。突然。」
一葉「じゃあじゃあ、名前だけでも。」
 私にお願いをする一葉というのは、かなりめずらしい。何かやる気になっているのかなぁ…。
千里「とりあえず、何のサークルを作ろうとしているのよ?」
一葉「サークル名は“思想遊戯同好会”です。議論をするサークルなのです。」
千里「いつもの、あの訳の分からない話をするってこと? なんでまた?」
一葉「そういう話ができそうな人がいたから、一緒に何かできたら面白いかなって。」
千里「マジで!? 一葉の話についていける物好きが現れたってこと?」
一葉「…ひどいよ。ちーちゃん。」
千里「それって、まさか新入生?」
一葉「そうだよ。佳山智樹くんって子。」
千里「男? 年下?」
 私は驚いた。かなり驚いた。
千里「で、どうしろっていうのよ?」
一葉「だから、サークルを作ろうってことになったの。でも人数が足りないから、ちーちゃんに入ってほしいの。」
千里「ちょっと待って。新しいサークルって、何人必要なの?」
一葉「五人だよ。」
千里「じゃあ、私を入れても、あと二人足りないじゃない。」
一葉「あとの二人は、智樹くんが連れてくるって。」
 私はちょっとばかり興味がわいてきた。智樹くんって、名前呼びだし。それに、この一葉が、一緒にサークルを作るという。これは大変な出来事だ。少なくとも、私は一葉ともう四年も付き合ってきているのだ。これがどれだけインパクトのある出来事か、分からないわけがない。
千里「まあ、面白そうではあるね。」
一葉「でしょ。だから、掛け持ちで名前を貸してくれるだけでいいから、よろしくね。」
千里「……おい。」

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西部邁

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