近代を超克する(18)対リベラリズム[1]西欧の自由

「近代の超克」特集ページ

 近代的な価値観を超克するために、ここからしばらくは、思想上におけるリベラリズム(自由主義)について検討していきます。

西欧の自由

 西欧における自由は、一言で表すと「制限の不在」という意味の言葉になります。
 その歴史をさかのぼると、古くはギリシア語のeleutheria(エレウテリアー)やラテン語のlibertas (リーベルタース)を見つけることができます。その後、キリスト教における自由意志の問題を経て、近代的自由と呼ばれる考え方に到達します。その自由は、英語で言えば「Liberty」と「freedom」、フランス語では「Liberté」、ドイツ語では「Freiheit」として論じられています。freeはゲルマン語系であり、英語はラテン語とゲルマン語の両方の流れを汲んでいるので二つの語があるわけです。
 西欧哲学の伝統では、自由についての数多くの哲学的思索が展開されています。その中には、自由が称賛語として論じられている場合が多々あります。そのとき、儒教における中庸の思想に馴染んだ日本人なら違和感を覚えます。状況や条件から、どのような制限が必要かどうかを検討することが重要なのであり、単にある制限が不在であるということだけでは中庸を外れてしまいます。中庸を外れている概念が、称賛語として肯定されていることは異様に思えます。
 また、それぞれの哲学者が語る自由についての、いわゆる哲学的定義はバラバラです。それらの無秩序な自由の定義から、自由一般を論じることはほとんど不可能です。ですから必要な作業は、西欧哲学における自由の代表的論者の言い分を個別に検討し、それらを一つずつ判定していくことです。西洋古代の自由についての考え方、キリスト教における自由意志の問題、西洋近代哲学における自由論を見ていき、それらが妥当であるかどうかを判断していきます。

自由を検討する方向性

 結論を先取りして簡単に述べてしまうなら、リベラリズムは欠陥品なので信奉することは止めましょうということになります。
 リベラリズムを捨てた場合に取りうる選択肢として、例えば、日本思想を挙げることができます。ただし、もちろん日本人および日本思想に興味がある外国人にしか勧めません。他国の人に無理に勧めることはしません。他国の人は、自分の国の文化や思想を選べばよいと考えるからです。
 そういった観点から、リベラリズムに代替可能な思想はたくさんあるでしょう。その中には、リベラリズムよりも有益な思想もたくさんありそうです。

西欧の文脈における検討

 西欧の文脈で考える人の中には、自由主義(リベラリズム)の代わりに保守主義 (コンサバティズム)を考える人もいると思います。私は日本思想の立場から、こちらに害が及ばない限りは反対しませんが、私自身は保守主義にも問題があると考えています。
 余計なお世話ではありますが、西洋の文脈で考える場合には、マッキンタイア(Alasdair MacIntyre, 1929~ )の『美徳なき時代』が参考になります。彼は次のように述べています。

 近代の組織的な政治は、それが自由主義的、保守的、急進的、社会主義的のいずれであれ、諸徳の伝統に対して真の忠誠を抱く立脚点からいえば、端的に拒絶されるべきなのだ。というのは、近代の政治それ自体が、その制度的諸形態において、かの伝統に対する組織的な拒絶を表現しているからである。

 この見解には、参照すべき論点が含まれています。それではどうすれば良いかというと、彼はアリストテレス的伝統を挙げています。その伝統は、西欧における道徳的・社会的態度とコミットメントに理解可能性と合理性を回復する仕方で述べ直されうると考えられているからです。

 つまり、アリストテレス的な道徳伝統は、西欧が所有し、継承するに足る有益な伝統かもしれないということです。


※第19回「近代を超克する(19)対リベラリズム[2]西欧古代」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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