思想遊戯(4)- 桜の章(Ⅳ) 桜の樹の下には

第三項

 前回、僕は一葉さんと正式に友達になった。なんか、おかしな友達のなり方だったと今でも思う。まあ、それはともかく、せっかく友達になったので今日も会いに行くのさ。前回、また話そうとちゃんと約束したし。
 僕がいつもの噴水のベンチへ行くと、一葉さんが誰かと話をしていた。話が終わるまで待っていようか迷ったけど、話が長くなりそうな気配なので声を掛けてみた。
智樹「こんにちは。」
 一葉さんと、先輩らしき男性がこっちを振り向いた。うっ、眼鏡が知的な男性だ。美男美女の組み合わせになってるし。僕は場違いか?
一葉「こんにちは。」
 一葉さんが、僕に挨拶を返した。それから、その男性の方を向いて僕を紹介してくれた。
一葉「この間、少し話したでしょ。彼が智樹くん。」
 その男性は、僕の方を見た。
???「ああ、君が佳山くんか。俺は滝嶋(たきしま)。よろしく。俺は三年だけど、君は?」
智樹「あ、一年の佳山です。よろしくお願いします。」
 僕は軽く会釈をする。
智樹「あの、前回また話そうって約束してたんですけど、お取り込み中なら、また今度ってことで。」
 僕は、微妙な空気を感じて、ここは一端引き下がろうとした。
一葉「いいえ、お話ししましょう。」
 一葉さんは、僕を引き留めた。
滝嶋「へえ、どんな話をするの?」
智樹「ええと、桜の話とかです。和歌とか、日本神話とか。」
 僕は、落ち着いた振りをして応えた。
滝嶋「ふ~ん? まあ、先約があるならいいや。上条、あの件については、また今度にでも話そう。」
一葉「面白い内容でしたら。」
 一葉さんが軽く会釈をすると、滝嶋さんは、「じゃあ」と言って去っていった。
智樹「よかったんですか?」
一葉「どうしてですか?」
智樹「いえ、別に・・・。」
一葉「ひとまず、座りましょう。」
智樹「あ、それなら、今日はカフェにでも行きませんか?」
一葉「そうですね。行きましょうか。」
 僕らは、校内のカフェへと移動した。僕はアールグレイで、彼女は抹茶ラテを頼んで店外の席に着いた。少し遠いけど、桜も綺麗に咲いているのが見える。今日の話題として、滝嶋さんの話をこれ以上引っ張るのは得策ではないと判断し、さっそく桜の話題を振ってみる。
智樹「今日は、随筆に見る桜の話でしたね。」
一葉「そうですね。まずは『枕草子』から行きましょうか。」
智樹「『枕草子』というと、清少納言ですね。」
 彼女は、うなずきながら革製の手帳を広げる。
一葉「清少納言は、〈桜は、花びらおほきに、葉の色濃きが、枝細くて咲きたる〉と記しています。桜は花弁が大きく、若葉の色は濃いけど枝が細く見える程度に咲いているのが良いということですね。」
智樹「なんか、直球ですね。」
一葉「私もそう思います。では、変化球というわけではないですが、『枕草子』とは違った視点として、次は『徒然草』の記述を見てみましょう。」
 そう言って、彼女は手帳をペラリとめくる。
智樹「『徒然草』は、たしか兼好法師でしたね。」
一葉「『徒然草』の桜と言えば、やはり第百三十七段です。さわりの部分を、ちょっと読んでみますね。」

 花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは。
 雨にむかひて月を恋ひ、たれこめて春のゆくへ知らぬも、なほあはれに情け深し。
 咲きぬべきほどの梢(こずゑ)、散りしをれたる庭などこそ見所多けれ。

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