思想遊戯(4)- 桜の章(Ⅳ) 桜の樹の下には

智樹「それで、とは?」
祈「だから、桜の下に屍体が埋まっているとか、どこから持ってきたネタかなって。この前、話題になった新しい女の人?」
 僕は、どう答えたら良いか分からなかったので、素直に肯定した。
智樹「まあ、そうかな。」
祈「ふ~ん。で、どうなのかな?」
 水沢は、興味なさそうに聞いてきた。
智樹「別に、単なる友達だよ。ただ、考え方がおもしろいから、色々と話を聞いていると楽しいことは楽しいけど。」
祈「どんな人なのかな?」
 僕は、しばらく悩んだ。なんて説明すれば良いんだ?
智樹「難しいなあ。ある意味で、変わった人だよ。それよりもさあ、水沢はどうなんだよ?」
祈「私?」
 水沢はキョトンとした、ように見えた。
智樹「水沢ってさあ、高校のときとか、けっこうモテてたみたいじゃん。」
 水沢は、少し赤くなった。
祈「な、なに。急に。」
 僕はおもしろくなった。
智樹「いや、だって、水沢が告白されたとかいう話、聞いたことあるぜ。」
 水沢は、また少し赤くなった。
祈「な、なんで智樹くんがそんなこと知ってるのよ?」
智樹「いや、だって、聞いたし。」
祈「何、聞いてるのよ。というか、誰に聞いたのよ?」
 僕は少し困った。
智樹「いや、水沢の仲良かった友達に、橘さんっていたじゃん。橘さんと同じクラスになったとき、隣の席になったことがあったでしょ? そのときに色々と聞いたんだよ。聞いたというか、聞かされたというか・・・。」
 水沢は、むくれた顔をした。
祈「それで、どんな風に聞いているの?」
智樹「どんな風って?」
 水沢は、声を大きくして言った。
祈「だから、どんな感じで智樹くんがその話を聞いたか聞いているの!」
 水沢の日本語が変になってる・・・。
智樹「いや、バレー部の部長だっけ? けっこう人気のあったやつに告白されたのに、水沢が振ったって、けっこう有名な話だったと思うけど。」
 水沢は、なんか、怒ってる? まあ、過去の恋愛話は恥ずかしいか・・・。
祈「それで、智樹くんはどうしたのよ。」
 その顛末について、僕は言わないことにした。必要もないし。
智樹「どうしたって、どうもしないけど・・・。」
祈「じゃあ、なんで聞いたのよ。」
智樹「聞いたっていうか、聞かされたっていうか。そもそも水沢と俺って、高校時代はそんなに接点なかったじゃん。あの当時の水沢って、今とちょっと印象が違って、おとなしめで清楚な感じがしてたし、もてそうだなとは思ってたけど。」
 水沢は、立ち上がってうろうろしだした。
祈「なによ、それ…。」
智樹「いや、なんだと言われても・・・。」
祈「いい!」
 水沢は、僕をにらんで言った。
智樹「はい。何でしょうか?」
 なぜか敬語になる僕。
祈「私は、高校のときとは違うの。あのときの私とは違うの。今は、智樹くんの目の前にいる私が私なの。分かった?」
 僕は、さっぱり分からなかったが、とりあえず、うなずいた。
智樹「あっ、はい。分かりました。」

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西部邁

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