思想遊戯(11)- パンドラ考(Ⅵ) 佳山智樹の視点(大学)
- 2016/9/28
- 小説, 思想
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つまりゼウスは、
人間がどれほどひどくそれ以外の禍いに苦しめられても、
やはり生命を投げすてず、
たえず新たに苦しめられつづけていくことを欲したのである。
そのため彼は人間に希望を与える、
希望は本当は禍いの中でも最悪のものである、
希望は人間の苦しみを長引かせるのであるから。ニーチェ『人間的、あまりに人間的』より
第一項
一葉「ねえ、智樹くん。」
智樹「はい? なんでしょう?」
一葉「もう桜が散りきってしまいましたね。」
そう言って彼女は、花びらが残っていない緑の桜の木を見る。僕は不謹慎にも、その憂いを帯びた横顔に見とれるのだ。
智樹「そうですね。また、来年のお楽しみです。それに、桜は散るからこそ美しいのだと思います。」
僕は、割と恥ずかしいことを言った。彼女は静かにうなずいてくれた。
しばらく僕たちは、黙って緑に覆われた桜の木を見ていた。
一葉「そういえば智樹くん。どこかのサークルに入りましたか?」
智樹「いえ、まだです。一葉さんは、どこかのサークルに入っていますか?」
一葉「いいえ、どこにも。」
その答えを聞いて、僕は良いチャンスかもしれないと思った。
智樹「一葉さんなら、哲学サークルとか、そういったのに入っているイメージですけど。」
一葉「私も大学に入ったばかりのころは、そういったサークルに入ろうと思っていたので、仮入部とかはしました。でも、なんとなく馴染めなかったというか、結局入らずじまいでしたね。」
馴染めなかったというより、多分だけど、レベルが低かったのではないかなと僕は思う。もしくは、恋愛関係で一悶着があったかだな。まあ、サークルに一葉さんみたいな人がいれば、恋愛関係で揉めるのは想像に難くない。
智樹「それじゃあ、僕らでサークルを作ってみませんか?」
僕は、思い切って提案してみた。彼女は、僕をじっと見つめる。
一葉「どういったサークルですか?」
智樹「そうですねぇ・・・。読書サークルとか、哲学サークルとか。一葉さんがしてくれたみたいな話を、みんなで集まってワイワイ楽しむサークルです。楽しそうじゃないですか?」
彼女は、微妙な表情で言う。
一葉「メンバーは? 私と智樹くんだけですか?」
うっ、痛いところをつかれた。でも、ここで引き下がるのはもったいない。
智樹「実は、こういう話が好きな仲間がいるんですよ。そいつらも、一葉さんの話とか聞かせてもらえると喜ぶと思うんですよね。それなら、いっそのことサークルにしちゃえばどうかなって。」
一葉「それなら、特にテーマを限定せずに、何でも議論し合えるようなサークルが良いと思います。」
僕は嬉しくなった。
智樹「それでは、サークル名は何にしましょうか?」
一葉「そうですね。特に凝(こ)る必要がないと思います。何でも良いと思いますよ。」
正直なところ、僕はかなり困ってしまった。何せ、大学に入ったばかりで友達もそんなにいないのだ。新しく作ったサークルに入ってくれそうな人なんて、すぐに集められるわけがない。
でも、いつも噴水のところで、彼女が座っているときをみはからって押しかけるという方法には、さすがに限界を感じてもいたのだ。噂にもなってしまうだろうし。それは、まずい。
だから、サークル仲間とか、ちゃんとした関係性を作っておくことは大事なことというか、必要なことなのだ。ここで、新しいサークルを作れるかどうかは、けっこう重要な分岐点だ。
大学に入学し、ともに新大学生となった仲間たちの顔を覚えだしたころ、僕も気の合うやつができた。その中に、峰琢磨がいた。まず、こいつを無理矢理に勧誘し、仲間にしてしまおう。
最初に誘ったときは断られてしまったが、そんなことで諦めるほど潔くはない。琢磨の肩に手を回し、ホールドして食堂で飯をおごりながら頼み込む。はじめは乗り気ではなかった琢磨だが、なんと大学の連合会へサークルの作り方を聞きにいってくれたりして、思った以上に動いてくれた。ありがたい。琢磨が持ってきてくれた情報によると、新しいサークルを結成するのには、最低でも5人必要ということらしい。琢磨を入れたとして、あと2人か。さて、どうしたものか…。
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