思想遊戯(11)- パンドラ考(Ⅵ) 佳山智樹の視点(大学)

第二項

 僕は、水沢をサークルに誘ってみることにした。そもそも、誘えるレベルの知り合いが、琢磨と水沢くらいしかまだいない。これから友達を増やしていかないと…。
 水沢の帰り際を狙って、一緒に帰ることにする。その帰り道に、水沢にサークル勧誘してみる。
祈「…ちょっと、考えさせて。」
 水沢の返答はそんな感じだった。う~む、どうしよう…。
 琢磨は、たぶんいけると思っていたけど、水沢は微妙だよなぁ。考えるって言ってもらえただけでも、想像以上に良い結果だとは思うけど。まあ、考えてくれるってことで、また頼み込んでみるかなぁ。でも水沢って、押しだけじゃ、どうしようもないんだよなぁ。何か、決め手がないとダメかなぁ。
智樹「ええと、今のところ、2人くらいはいけそうです。ですから、僕と一葉さんを合わせると4人ってことで、あと1人なんですね。」
 今後どうしようかベンチに座って悩んでいると、偶然にも一葉さんが通りかかり、声をかけてくれた。メンバー集めに四苦八苦している今は、微妙に顔をあわせづらい。
一葉「そうですか。では、どうにかなりそうなのでしょうか?」
 僕は、どう応えたらよいか悩んだ。
智樹「ええとですね、もう1人心当たりあったんですけど、他のサークルに入っちゃいまして、ちょっと困っているところです。申し訳ないのですが、一葉さんの方は、誰か入ってくれる人に心当たりはないでしょうか?」
 一葉さんは、感情の読めない表情で黙って僕を見ている。ううっ、何か、いたたまれない…。僕も黙って、お互いに見つめ合う形になる。何か、言い知れぬ圧迫感がある…。僕が緊張に耐えかねて、とりあえず何か言おうとすると、先に一葉さんの方から口を開いた。
一葉「1人なら、心当たりがあります。ちょっと聞いてみますね。」
智樹「本当ですか? それは…、ありがたいです。」
 僕は一葉さんと連絡先を交換した。
 これで、あとは何が何でも水沢を説得しなければいけなくなった。水沢を説得し、サークルを設立して、大学生活を楽しむのだ。
 探してはいるんだけど、水沢と会えない日が続いた。どうやら、講義なども休んだりしているようだ。代筆は頼んでいたりするので、そこらへんはさすがというべきなのだが…。
 そんなある日、やっと学内で水沢を見つけて、僕は駆け寄った。
智樹「よお、水沢。あのさあ…。」
祈「智樹くん。私、サークルに入るよ。」
 しまった。遅かったか。ここ数日は、そのための用事で会えなかったのだろう…。
智樹「えっ、そうなの? それは残念…。」
 水沢は、あきれた顔をした。
祈「そうじゃないよ。“思想遊戯同好会”に入るって言ってるの。」
智樹「本当? えっ? マジ?」
 僕は、かなりバカっぽい返し方しかできなかった。水沢はやれやれといった感じで、僕に言うのだ。
祈「だから、これからもよろしくね。」
智樹「あ、ああ、よろしく。」
祈「じゃあ、日程とか、細かい予定とか決まったら教えてね。」

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