今回は、イギリスの哲学者であるホッブズ(Thomas Hobbes、1588~1679)とロック(John Locke, 1632~1704)の著作を参照していきます。
ホッブズによる人工の人間コモンウェルス
ホッブズの著作『リヴァイアサン』では、社会の自然状態から、人間が相互に契約を結んで一つの意志に服従する必要が説かれています。そこには、多くの人々の相互契約により生まれた一個の人工の人間「コモンウェルス」が出てきます。それは、人々の平和と共同防衛のために、人々を手段として用いることができるように、多数の人々を一個の主権者にしたてあげた存在なのです。
身も蓋もない言い方をすれば、ホッブズがそのようなおかしな設定を勝手に構築したということです。ホッブズは、次のような説明を行っています。
まったくの自然状態、いいかえれば、絶対的自由の状態、たとえば主権者も国民もないような状態は、無政府状態であり、また戦争状態であるということ。その状態を避けるために人々が導かれる戒律は自然法であること。主権者権力を伴わないコモンウェルスは、実体のないことばにすぎず、存立しえないこと。国民は、その服従が神の法に反しないかぎり、すべてのことがらにおいて、主権者に単純に服従すべきであるということ。
ホッブズの言う自然状態は、個人的な欲求が善悪の判断の基準という状況のため、戦争状態だと想定されています。ホッブズの自然状態の考察は、思想実験としては考えてみるべき点があります。
しかし、人類はその誕生から、いいえ、それ以前の類人猿の段階においても、それなりの関係性を築いて歩んできたことに注意すべきです。人々は、契約ではなく歴史的な関係性の上で、信頼を築いてきたことを重視すべきだと言いたいのです。
また、コモンウェルスによる契約は、新たに国家を建設するための根拠と見なされてしまう恐れがあります。この点についても、注意が必要です。
ホッブズによるコモンウェルスの形態
コモンウェルスの形態については、次の三つが示されています。
(1)君主政
・代表者がひとりの合議体。
(2)貴族政
・一部の者の合議体。
(3)民主政
・集まる意志のあるすべての者の合議体。
コモンウェルスにおいては、(ホッブズが設定した)主権者との契約があるため、他の何者かに服従する契約が認められていません。そのため、ある合議体から、他の合議体へ移ることは禁止されています。なぜなら人々が、危険な自然状態から、主権者との契約によって抜け出せているからです。
ただし、ホッブズにおいては、主権者にたいする国民の義務は、主権者が国民を保護できる権力を持ち続けるかぎりにおいてのみ継続すると考えられています。
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