近代を超克する(12)対デモクラシー[5] ホッブズとロック

ロックの自然状態

 ロックの著作『統治論』では、自然状態には自然の法があり、それは理性の法だと考えられています。その自然状態において、人間は唯一全能で限りない知恵を備えた造物主の作品だと見なされています。そこでは全ての者が相互に平等であって、従属や服従はありえないというのです。
 この自然状態は、キリスト教における人間観が前提とされており、あり得ない理想状態というより、単なる妄想状態です。ホッブズの現実味のある自然状態とは別物というか、劣悪な偽物です。その自然状態を基に論理を組み立てているため、ところどころに歪みが生じています。
 ロックのシナリオでは、そんな理想的な自由の状態を人間は放棄し、なぜか他人と合意して共同社会に加わり、市民社会の拘束を受けることになります。その目的は、所有物を保全する権力と犯罪を処罰する権力を得るためだというのです。そこで人間は、相互に快適で安全で平和な生活を送ることになります。そして、多数派の決定に従い、それに拘束されるという義務に服することになるのです。
 ちなみにロックは、ある国家の一員となるという同意について、暗黙の同意と明白な意志表示を区別しています。国家の一員となるには、後者の明文による、はっきりとした約束と契約が必要だというのです。

ロックの抵抗権

 そして、ロックの有名な抵抗権が出てきます。それは、自分の安全を保証するための権利です。国民は根源的な自由を回復することができ、新しい立法部を樹立する権利があるというのです。立法権を自分たちで持ち続けるか、新しい統治の形態を樹立するか、古い統治を続けるか、自分たちが良いと思うように決定する権利があるというのです。
 なぜそのようなことが可能かというと、自然状態における法を根拠にしているからです。ホッブズのような戦争状態としての自然状態ではなく、理性の法がある自然状態を設定しているため、人間は自然の状態に復帰するという手を使うことができるのです。
 しかし、ロックの自然状態では、所有物の保全が保証されず、犯罪を処罰することもできないものだったはずです。つまりロックの論理は、自然状態を都合のよいように解釈することで成り立っているものなのです。彼の考えは、論理としては破綻していると言わざるを得ません。

ロックによる統治の形態

 ロックのコモンウェルスは、独立した共同社会を意味しています。その統治の形態は、次のように分類されています。

(1)君主制
・共同社会の全権力を一人の人間の手中に委ねる。
・世襲君主制と選挙君主制がある。
(2)貴族制
・立法権を少数の選ばれた人々とその相続人や後継者に委ねる。
(3)民主制
・多数派はその権力のすべてを用いて、随時、共同社会のために法をつくる。
・多数派が任命した役人をつうじて法を執行させる。

 ロックはこれらの諸形態について、複合し混合した統治の諸形態をつくることができると考えています。つまり、法をつくる権力をどこに置くかで国家の形態が決まるというわけです。

ロックの権力分立論

 ロックは、権力分立についても論じています。現代の三権分立論では、行政権と立法権と司法権の分立ですが、ロックは次のように分けて考えています。

立法権
→共同社会とその成員を保全するために、国家の力がどのように運用されるべきかを指示する権利
→最高の権力
行政権
→社会の国内法を、社会のすべての部分に対し、その社会の内部で執行する権利
連合権
→公共の安全と利益を、恩恵や損害を受けるかもしれぬ相手との関係で対外的に処理する権利

 ロックは立法権を最高の権力に置き、行政権と連合権は本質的に別個のものだと考えています。彼の権力分立論の詳細はともかく、権力を分立して考えることは参考にすべきでしょう。


※第13回「近代を超克する(13)対デモクラシー[6] ルソー」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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