思想遊戯(10)- パンドラ考(Ⅴ) 水沢祈からの視点(大学)

「思想遊戯」特集ページ

 あらゆる禍いにみちた瓶の中に
 宝石のごとく貴重な希望が保存されているはずはありませんから。

 ブルフィンチ『ギリシア・ローマ神話集』より

第一項

智樹「なあ、水沢。」
祈「何かな?」
 二人歩いて帰りながら、智樹くんは私の名前を呼んだ。
智樹「入るサークル、決まった?」
祈「入ることが前提なの?」
智樹「まあ、普通はどこかに入るんじゃない?」
祈「そうかもね。」
智樹「水沢は、どこにも入る予定ないの?」
祈「どうだろうね?」
智樹「どうだろって、僕に訊かれてもなぁ…。」
祈「智樹くんは、どうするの?」
智樹「僕? 実はねぇ、新しいサークルを作ろうとしているんだ。」
 そう言って、彼は笑うのだ。その笑顔が素敵で、私は少し不安になる。
祈「新しいサークル? なんで? なんていうサークル?」
智樹「“思想遊戯同好会”っていう名前のサークル。特にテーマを限定せずに、議論し合うサークルだよ。」
 私は歩みを止めた。隣の智樹くんも私に合わせて歩みを止める。
祈「どうして?」
智樹「どうしてって、面白そうだから。」
祈「だから…。」
智樹「ええとね、最近、上条一葉さんって人と仲良くなったんだけど…。その人、すごく博識で話していると面白い人で、その人にいろんなこと教えてもらいたくて、その人といろんなことを話したくて。それなら、サークルを作っちゃおうって考えたんだよ。」
 そう言って、彼は笑うのだ。
祈「それで?」
智樹「それでね、サークルを作るには5人必要で、入ってくれるメンバーを探しているんだよ。」
祈「それで?」
智樹「それで、もしまだ入るサークルが決まっていないんなら、水沢に入ってほしいなって…。」
 そう言って、彼は笑うのだ。
 私は黙って歩き出す。彼も、私に合わせて歩き出す。
祈「…ちょっと、考えさせて。」

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西部邁

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