検索結果はリアルじゃない

ゲンキングの告発

 不都合な真実に目をつぶるのは、新聞・テレビと言った既存マスコミの得意技で、これをネットでは「報道しない自由」と呼び、マスコミ不信を日々高めています。あまり目立ちませんが、Web系のメディアにもタブーはあります。むしろ、多いと言っても良いでしょう。理由は3つあります。

 まず、広告主の意向です。Web系のメディアの多くが、広告収入に支えられており、広告主への批判には自主規制がかかるのです。軋轢を怖れた編集部により、原稿の書き直しを命じられたことは一度や二度ではありません。つづいて「検証不可案件」。これが実に厄介です。

 公共インフラといって間違いの無い「Web」ですが、大半は民間により運営されています。海底ケーブルや回線施設はもちろん、いわゆる「ドメイン」も民間の任意団体による運営です。LINEやFacebookは言わずもがなですし、検索のデファクトスタンダードであるGoogleだってそうです。「状況証拠」から事実関係を特定することができますが、それはいわば「事実(仮)」に過ぎません。コアな技術は各社の「企業秘密」のため検証できないからです。そこが「憶測」との境界を曖昧にし、報道を躊躇わせます。それがWeb業界に不利な情報であるなら、積極的に火中の栗を拾うものはいなくなります。そこに、一石を投じたのが「ゲンキング(GENKING)」氏です。

リアルじゃない発言

 発言を紹介した技術系Webメディア「TechCrunch」は、ゲンキング氏をマルチクリエーター・タレント・モデルと紹介しますが、お昼の情報番組『ヒルナンデス』で活躍する、パツキンのワンレンが特徴的なお姉タレントと紹介する方が、理解が早いでしょうか。

 今年(2016年)の3月に福岡で開催されたWeb業界のイベントに、インスタグラムの達人として招待されたゲンキング氏は、インスタグラムと比較して「検索結果はSEO対策されていてリアルじゃない(TechCrunchの記事内 発言要旨)」と断じます。これが事実なら、Googleの検索結果を否定することでありながら、同席したWeb業界関係者は否定も肯定もせずスルーを決め込みます。記事も「SEOの件も含めて、すごく核心をついた話に聞こえる(同記事)」とお茶を濁すに留めます。

 SEOとは検索エンジン最適化の略称ですが、一般的には「検索エンジン対策」と呼ばれ、自社のコンテンツを特定のキーワードで上位に表示させる取り組み全般を指します。そして結論を述べればSEOにより検索結果は歪められており、ゲンキング氏の指摘は正しい。

 しかし、ゲンキング氏はインスタグラムで名を馳せ、タレントをはじめマルチな活躍をしていますが、Webの専門家だという経歴は、せいぜい「ファッションECサイトのアルバイト(同記事)」ぐらいで、その程度の経験で真相を知るほどSEOは底の浅い世界ではありません。また、検索結果の否定は、Googleへの誹謗中傷と紙一重です。ゲンキング氏はなにを「根拠」に「リアルじゃない」と否定したのでしょうか。

 状況証拠を積み重ねることで見えてくる「事実(仮)」があります。

タイの裸族もみ消し

 美容、健康食品、ダイエットグッズは通販における最激戦区です。「ビリーズブートキャンプ」「ワンダーコア」のように身体を動かすものから、飲むだけ、巻くだけで痩せる、元気になるというグッズは多く、ネット上で他社を出し抜くためには検索結果の上位にランクインしなければなりません。だから、これらの業界は古くから、積極的にSEOへ取り組んでいます。過剰なテレビCMで有名な「ライザップ」は、もともとダイエット食品で世に出た会社で、ネットの中の「ライザップ」情報を渉猟すると、執拗なほどのSEOが施されています。

 SEOといえば検索結果の上位を目指すものと、一般的には受け止められていますが、こうした激戦区で闘う企業にとってそれ以上に大切になるのが「逆SEO」です。逆SEOとは、自社や商品への不満や悪評を、検索結果から排除する取り組みです。テレビの通販番組枠を買取、商品を宣伝しても、商品名での検索結果に「悪評」が見つかれば、すべての努力が水泡に帰すからです。以前からWeb業界内では知られていたことですが、その存在を一般人にまで知らしめたのが、タイにおける「全裸事件」のもみ消しです。

 タイ王室の保養地でもある高級リゾート「ホアヒン」で日本人数十名が、全裸になってビーチで円陣を組んで騒ぎ立てていた様子を、現地の人がTwitterで拡散し、現地警察が捜査に動く騒動に発展。国辱ものの裸族は、日本のIT系企業の社員旅行で、文字通り「珍事」。社長名義で謝罪コメントを発したまでは「若気の至り」のレベルでしたが、同社はノウハウを駆使し、同社名と裸踊りが結びつかないよう「逆SEO」を仕掛けて検索結果を捏造します。捏造は成功しましたが、捏造を告発したブロガーへの恫喝や脅迫が、その告発者によりつまびらかにされ再炎上。策士策に溺れるの実演となりました。

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西部邁

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  1. 2015-9-7

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